五輪延期で100歳聖火ランナーに 武漢は従軍地、平和を伝える運命の巡り合わせ

[ 2020年4月13日 05:30 ]

100歳で迎える東京五輪の聖火ランナーに意欲を見せる矢崎氏
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 東京五輪の聖火ランナーを務めるNPO法人「東京葛飾バイコロジー推進協議会」の矢崎文彦会長は現在、99歳。大会の1年延期により、100歳で大役を担うことになった。新型コロナウイルスが最初に発生した中国・武漢は戦時中に従軍した土地。不思議な巡り合わせに運命を感じ、パンデミック終息後の東京で平和の灯をつなぐ姿を思い描いている。

 コカ・コーラ社の募集で東京五輪の聖火ランナーに選ばれた矢崎会長は今年12月20日に百寿を迎える。「五輪が1年延期になったけど、もちろん走るつもりです。五輪は平和じゃないとできない。戦争を経験した人間として平和の素晴らしさを世界に伝えたい。ギリシャから来た尊い火を平和の祭典に運ぶ。こんなに名誉なことはない。そのためにも一刻も早くコロナが終息してほしいですね」。平和のメッセージを世界に発信したいという思いは、日を重ねるごとに増している。

 早大卒業後に自転車製造会社に就職。入社1年目の44年7月に召集令状が届いた。上海から湖北省応城へ行軍する途中、武漢に滞在。米軍機の猛攻撃に遭遇し、死を覚悟したこともある。応城では現地の治安維持のため、市街の巡回警備などを担当。多くの仲間が激戦地の沖縄や満州に送られ、命を落とした。終戦後は自転車の製造に身をささげ、定年後にNPO法人「東京葛飾バイコロジー推進協議会」を設立。自治体や警察と連携して、放置自転車問題や盗難防止キャンペーン、小学生や高齢者を対象とした交通安全講習会などを行っている。

 健康の秘けつも自転車だ。日常生活で公共交通機関は使わず、自宅のある柴又から葛飾区役所まで片道約3キロの道のりをほぼ毎日、ペダルをこいで通う。寒さの厳しい冬以外は毎朝6時半からのラジオ体操も欠かさない。「私の人生は自転車で成り立っている。おかげさまで足腰は丈夫です。電動アシスト付きの自転車には絶対に乗りません。ママチャリでもありませんよ」。99歳になっても体の衰えは感じていないが、現在は感染予防のために外出を自粛中。体力維持が難しいだけに、一刻も早く日常が戻ることを願っている。

 “先輩”の存在がモチベーションになっている。先日、テレビを通して、栃木県に103歳の聖火ランナーがいることを知った。現役美容師の箱石シツイさんだ。福岡市の老人ホームで暮らす世界最高齢117歳の田中カ子(かね)さんも聖火ランナーに内定している。100歳超の面々が来年、走るかは不透明だが、矢崎氏は「元気な方はいますね。僕も頑張らなきゃと思う。人生は気持ちですからね。気持ちがしっかりしていれば、病気も衰えも逃げていくと思います」と前を向く。

 食べ物の好き嫌いはなく、お酒は誘われた時に限り1合だけ飲む。「3食きちんと食べて、運動して、よく寝る。これが基本ですね。年齢はあまり気にしていないけど、ちょうど100歳で五輪を迎えることになった。昔、武漢にいたこともあるので、運命みたいなものは感じますね」。コロナ禍が終息し、3段ギア付きのブリヂストン社製のマシンで再び疾走できる日を心待ちにしている。

 ◆矢崎 文彦(やざき・ふみひこ)1920年(大9)12月20日生まれ、長野県諏訪市出身の99歳。諏訪中(現諏訪清陵高)から早大に進学。卒業後に大日本機械工業に入社した。日本自転車製造卸協同組合の専務理事などを経て、96年にNPO法人「東京葛飾バイコロジー推進協議会」を設立。趣味も自転車で、47都道府県でペダルをこいだ経験がある。1メートル67、60キロ。血液型O。

 ▽東京五輪の聖火リレー 3月26日に福島県のサッカー施設「Jヴィレッジ」を出発し、移動日を含めて121日間かけ、47都道府県、859市区町村を巡る計画だった。ルートには世界遺産や名所旧跡、東日本大震災などの災害で被害を受けたエリアも組み込まれた。ランナーは約1万人で、各地にゆかりのある多くの著名人も登場する予定だった。大会組織委員会は来年行うリレーでは、現状のルートを尊重し、ランナーも既に選ばれた人が優先的に走れるようにするとしている。

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