追悼連載~「コービー激動の41年」その43 ジャクソン監督の大胆な決断
2004年1月12日。フィル・ジャクソン監督はレイカーズの本拠地「ステイプルズ・センター」にやってきたキャバリアーズの新人に目を奪われた。「19歳であんなことができるなんて…」。それがデビューしたばかりのレブロン・ジェームズだった。
「この年齢だと車や女性に夢中になってしまうのに、すでに成熟した28歳の人間を見ているようだった。いつかしっぺ返しをくらうんだろうな…」。試合は89―79でレイカーズが勝ったものの、ジェームズは36分出場して16得点をマーク。ジャクソンは時代の移り変わりを察していた。やがて彼の予想が現実となっていくのは皆さん、ご承知の通り。しかもジェームズはコービー・ブライアントのいたレイカーズに移籍して現役生活の晩年を迎えている。ブライアントがレイカーズに在籍していたとき、チームにはもうひとつ違う“未来のレール”が敷かれていたように思う。
さてフランク・ハンブレン・アシスタントコーチの「いい加減にしろ」発言で一度はダンマリを決め込んでいたブライアントはわずか2週間で態度をまた変える。2004年1月31日、翌日にラプターズ戦を控え、さあこれから移動というときにまた“事件”が起きた。
ジャクソンはロードでは第3Qまでにリードを奪わないと勝てないという信念の下、選手には「試合ではいつもより多く走るんだ」と要求していた。この日もそのための走り込みをさせたのだが、ブライアントは右肩痛を理由に、アイスパックを肩に付けたまま走ろうとはしなかった。その1時間前にジャクソンは「走れるか?」と尋ね、ブライアントは「Sure」と言っていたのだが、またしても言葉と行為は一致しなかった。
「なぜウソをついた?」「答え方が間違っていました」「皮肉を言うな、もっと私をリスペクトしろ」「…」。こんなやりとりが続き、ジャクソンは監督室に行き、ブライアントはシャワーを浴びるためにロッカールームへ。そのときだった。ジャクソンは監督室の外から聞こえてきたブライアントの罵声を耳にする。「やつはなんと言ったんだ?」。ジャクソンは、ブライアントが会話を交わす数少ないスタッフの1人で、テーピングの達人と言われていたトレーナーのゲーリー・ビッティにこう尋ねた。ビッティは「わかりません…」と苦渋の表情を浮かべたが、たぶん両者の間に挟まれて真実を言えなかったのかもしれない。
ジャクソンは怒った。女性への暴行事件での裁判に苦しむブライアントには開幕前から同情の意を示してきたのだが、この罵声でついに堪忍袋の緒が切れた。そしてジェリー・ウエスト副社長兼GMの補佐をしていたミッチ・カプチャクのオフィスに行き、ブライアントを2月のトレード期限までに放出するように要求した。
「もし彼(ブライアント)がここにいるなら私は来季、指揮を執らない。誰の言うことも聞かないんだから仕方がないだろう。もう時間を浪費したくはない」。そんな不満を声を荒げて吐き出した。
ジャクソンの要求したトレードはきちんと交換要員を指定していた。それは過去にも考えたことのあるシナリオを踏襲していた。ブライアントを出して獲ろうとしていたのは当時ネッツに在籍し、今季からはレイカーズのアシスタントコーチを務めているジェイソン・キッド。当時はまだ30歳で脂が乗りきっていた。2002年のファイナルでレイカーズはキッドのいたネッツを倒して優勝しているが、そのときジャクソンはキッドの能力の高さには一目置いていた。
キッドがサンズに在籍していた2000年、ジャクソンはキッドにショーン・マリオンを加えた2対1のトレードでブライアントを出そうとしたがご破算になった経緯がある。交際していたジェリー・バス・オーナー(故人)の娘で球団幹部でもあるジニー・バスにはこのとき「あなたはオーナーシップの意味がわかっていない。スーパースターが来年も戻ってくるからシーズン・チケットというのは売れるのよ。コービーは選手としてあと14年くらいの寿命を持っているわ」と言われたが、ジャクソンは「キッドでも営業的には成功する」と反論。4年の歳月を経て、その気持ちはさらに強くなった。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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