石川遼は五輪を諦めない ウイルス、選考、ツアー、練習 「今」を語る

[ 2020年3月30日 05:30 ]

石川遼 単独インタビュー(上)

桜を背に笑顔を見せる石川(撮影・沢田 明徳)
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 新型コロナウイルスの感染拡大がスポーツ界に大きな影響を及ぼしている。男子ゴルフの石川遼(28=CASIO)が本紙の単独インタビューに応じ、「今」を語った。東京五輪の延期、依然として開催が不透明となっている国内ツアー、そしてきたるべき新シーズンへの新たな取り組み。スポーツの力を信じるトップアスリートの“心の声”を3回に分けて特集する。(取材、構成・黒田 健司郎、中村 文香)

 日本、世界が未曽有の危機に直面している。見えない敵との闘い。石川も先行き不透明の現状をうれう。

 「(これだけ厳しい状況は)初めてかな。インフルエンザと違って未知のウイルス。どう変わってしまうか予測できない。広まったら危ないとの思いで、今世界が動いている」

 緊張の日々が続くなか、改めて「予防」の大切さと日本人の勤勉さを感じたという。

 「元々、喉が良くないんですよ。へんとうとか、免疫落ちると荒れたりして、ここ2、3年は、うがいなどを徹底していた。そういう習慣はあったのですが、一人一人が手洗い、うがいをする。日本が感染者を抑えられてきたのは、国民性もあると思う。僕自身もこれを機に徹底していくと思います」

 コロナ禍はスポーツ界にも大きな影響を及ぼし、五輪が史上初めて延期された。

 「世界のスポーツの祭典だし、日本と世界の情勢も違う。この判断は素直に受け止めるしかない。ほかのスポーツで既に代表が決まっている競技は、そのまま出てほしいと思う。一スポーツ人としては、そう思います。それがフェア、かな」

 現在の世界ランクは97位。22位の松山英樹、41位の今平周吾とは大きな差がある。各国の五輪代表が従来通り開催1カ月前の世界ランクを基にした五輪ランクで決まるとすれば、来年夏の開催までの「猶予」は最低でも1年はある。

 「ゴルフは元々6月に決まるはずだった。今後同じ選考で進めていくかは現時点では分からないけど、自分の置かれている状況は良くない」

 慎重な姿勢こそは崩さないが、開催延期で逆転のチャンスが広がったことは事実だ。世界ランクは過去2年の成績が反映されるもの。石川は昨年、7月のメジャー、日本プロ選手権など3勝をマーク。仮に来年6月時点のランキングで選考されても、3大会のポイントは残る。可能性が消滅したわけではない。

 「(五輪出場への意欲は)もちろん、あります。状況は物凄く厳しいとは思うけど、気持ちは変わらないです」

 数々の逆境、ピンチを乗り越え、奇跡を起こしてきた男。母国開催でのプレーは諦めていない。

 《遼が改めて考え直した「スポーツの意義」》国内の男子ツアーは開幕戦の東建ホームメイト・カップ、中日クラウンズと2戦連続で中止が決まった。試合のない現実に直面し、石川はスポーツの意義を考え直したという。

 「スポーツがエンターテインメントということは理解していたが、こうやって初めて(ツアーが開催できない状況を)経験して、改めて社会の中でどういう立ち位置なのか、どうやって稼いでいたのかとか、凄く実感しました」

 ツアーの再開は5月中旬以降となる可能性が高い。そんな中で、プロ選手として何ができるか。思うことはたくさんある。1カ月前からSNSなどでファン向けに情報を発信することなどを企画していた。

 「今の環境の中で何ができるか、選手会などで考え、話し合っている。ゴルファーは個人事業主的なところもあるので、選手会としてできないだろうか、と。選手は200人もいる。試合がなかったら仕事がないという環境でなく、何かバランス良くというか、仕事の場を選手のためにつくる。いろんなことをJGTO(日本ゴルフツアー機構)と話し合ってやっていきたい。SNSは4月にはスタートしたいですね」

 男子ツアーはシード選手65人中31人が外国籍。来日後に2週間の待機要請が課される現状では、正常なツアーがなかなか開催されない危険も伴う。

 「日本がいろいろ制限をかけている状況の中でツアーを行うのは個人的には支持しない。外国人選手の意見を聞く機会もあり、“(日本に)行きたくても行けない。その状態で開催するのはどうなの?”という意見も出ている。来ることができない人は仕方ないので、日本人だけで開催する。それはちょっと違うかなと思います」

 現在はツアー再開に向け、練習場などで調整に励む。ラウンドは控えめにして「これまでと違う練習割合」と明かす。試合ができる日が明確にならない状況。モチベーションの維持も大変な時期だが、真摯(しんし)にゴルフと向き合っている。

 「試合がないからといって、モチベーションが下がることは一切ない。一日でもスイングを改善していかなきゃ、という思いはある。大事な時期だと思うし、自分としてはショットからパットまで取り組みたいことは山ほどある。ラウンドはたくさんはしていない。週1回ぐらいかな。でも今、ゴルフが楽しいです」

 ゴルフを通じて夢や希望、力をファンに与えてきた。今はスポーツが日常に戻ってくる時に備え、準備を怠らない。

 「一日でも早く皆さんの前でプレーできることを望んでいる。最初は無観客かもしれない。それでも、今できることをやって、待つしかない。まずは日本が安心して暮らせることが大前提。その日に向けて自分を磨き続けるしかない」

 ◇五輪ランキング 毎週更新される世界ランクが基になる。五輪ランクの15位までは各国最大4人までが五輪代表に選出される。16位以下は15位以内を含め最大2人まで。世界ランクは過去2年の対象試合のポイントの平均で算出される。ポイントは大会ごとの格や出場選手などで決定。直近の成績に重きが置かれ、大会後13週間は100%。14週後からは段階的にポイントが減り、2年後に消滅。石川の昨年の日本プロ選手権優勝で獲得したポイントは16点だったが、現在は11.65点まで減っている。

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