朝乃山、大関昇進へ 恩師の「遺書」と闘い抜いた“無観客場所”最後に桜咲いた

[ 2020年3月23日 05:30 ]

大相撲春場所 千秋楽 ( 2020年3月22日    エディオンアリーナ大阪 )

貴景勝(左)を押し倒し11勝目を挙げた朝乃山(撮影・長嶋 久樹)
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 関脇・朝乃山(26=高砂部屋)の大関昇進が22日、確実となった。大関・貴景勝(23=千賀ノ浦部屋)を倒し11勝目を挙げ、3場所通算32勝ながら番付編成を担当する日本相撲協会の境川審判部長代理(元小結・両国)が大関昇進を諮る理事会開催を八角理事長(元横綱・北勝海)に要請し了承された。これまで理事会で昇進が見送られた例はなく、25日の臨時理事会で大関・朝乃山が誕生する。

 大関昇進を懸けた一大決戦は魂のぶつかり合いになった。朝乃山は立ち合いで貴景勝に押し込まれたが、左手を伸ばしてまわしを取ると、一気に攻め込んで左からのおっつけ。体勢を崩した相手を押し倒し、昇進を決定づける白星をつかんだ。勝ち越しを懸けた一人大関を破り「土俵に上がった時、自分の相撲を取り切ることだけを考えた。辛抱して前に前に攻められたと思う。そこは良かった」と安どの笑みを見せた。

 史上初の無観客開催でルーティンを貫いた。「2階席の一番端を見て、そこで2人の恩師が絶対に見ていると思っていた。そういう思いで15日間取った」。3年前に40歳で病死した富山商の恩師・浦山英樹さんと先場所途中に55歳で急死した近大相撲部監督の伊東勝人さん。呼び出しにしこ名を呼ばれて土俵下の控えを立つ時、2階席を見て2人から力をもらった。

 中学時代に左肘を骨折して相撲を断念しようと考えていた時、浦山先生が声を掛けてくれた。「僕はずっと先生を信じてやってきた。遺書も先生と一緒に戦っているという意味で常に持っている」。プロへと導いてくれた先生が亡くなる直前、震えた手で書いてくれた「遺書」を明け荷に必ず入れて支度部屋に持ち込む。恩師の魂が宿る26歳が、横綱に2連敗した崖っ縁からはい上がった。

 2敗目を喫した15日夜、場所が始まり初めてアルコールを口にした。コップ1杯のビールで喉を潤し気分転換しようとしたが、昇進目安「三役で3場所計33勝」がチラつき「残り7日で6勝は無理や」と弱気になった。外出自粛の中、就寝前には米俳優トム・クルーズ主演のハリウッド映画「ミッション:インポッシブル」を見た。大好きなアクション映画にハマり、毎日1本を観賞して気分を落ち着かせた。33勝には届かなかったが、内容が評価された。

 負ければ昇進見送りとなった一番を制してたぐり寄せた大関の看板。1メートル88、177キロの体躯(たいく)には大きな可能性が秘められている。「もし大関になったら小さい子供やプロの世界に入ってきた子供たちに尊敬されるような力士になりたい」。恩師へ最高の恩返しをするまで朝乃山は“一生懸命”戦い続ける。

 《富山のスターに…浦山英樹さん「遺書」全文》石橋よく頑張っている。おれのほこりや!入門したときからチャンスがある。スーパースターになれるやつは一にぎり。おまえにはそのしかくがある。横綱はなかなか大変だがおまえには無げんのチャンスがある。富山のスターになりなさい。

 ◆朝乃山 英樹(あさのやま・ひでき)本名石橋広暉(いしばし・ひろき)1994年(平6)3月1日生まれ、富山県富山市出身の26歳。近大を経て2016年春場所、本名の石橋で三段目100枚目格付け出しデビュー。17年春場所の新十両で改名し、富山商高の浦山英樹監督(故人)から3文字もらった。同年秋場所新入幕。令和最初の19年夏場所で初優勝。三賞は殊勲賞2回、敢闘賞3回、技能賞1回。金星1個。得意は右四つ、寄り。家族は両親と兄、弟。血液型A。

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