樋口新葉 親友・池江璃花子と目指す“約束の場所”

[ 2019年5月24日 13:21 ]

(左から)池江璃花子と樋口新葉
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 フィギュアスケート女子で18年世界選手権銀メダリストの樋口新葉(18=明大)が、新たなスタートを切った。今月18日に東大和スケートセンターで行われた関東学生選手権で、新SP(ショートプロラム)曲「バード・セット・フリー」を初披露した。オーストラリアの歌手シーアが歌う力強いナンバー。後半に組み込む3回転ループが1回転になるなど試行錯誤は続くが、「自分らしく滑っている」と振り返った。

 開智日本橋学園高を卒業し、今年4月に明大へ進学。大学名の入ったジャージーに袖を通し、自分の演技が終わればチームメートへの応援で声をからす。「高校よりも凄い忙しいです」。そう語る笑顔からは充実感がにじむ。練習場とキャンパスを往復する日々。文武両道を地でいく大学生スケーターは、心機一転で新たな挑戦を楽しんでいた。

 多忙を極める日常でも、必ず向かう場所がある。それは白血病で闘病中の競泳女子の池江璃花子(18=ルネサンス)の病床だ。忘れもしない2月12日。池江が白血病を公表し、樋口は「その発表で知りました」。競技こそ違うが、頻繁に連絡を取り合い、刺激し合う親友の急変にショックを受けた。あれ以降、会える時間は減った。それでも近況を報告し合い、池江の状態が安定した時にお見舞いに行くという。

 2人が共有してきた時間は濃い。樋口が出場した18年3月の世界選手権。SPで転倒した後、池江からの激励メールに奮起した樋口がフリーで挽回。銀メダルに輝いた。樋口が東京辰巳国際水泳場にかけつけた同年4月の競泳日本選手権では、池江が日本記録を連発。その姿に感動した樋口は涙した。2人で乗り越えてきた思い出は数え切れない。

 ともに刻む時計の針は、現在進行形で進む。樋口は「(池江が)公式サイトで発表した通りなんですけど…」といい、映画や塗り絵、パズルをしながら闘病する池江の姿を見てきた。「今はあまり(池江と)話せない。なんと声をかけていいか分からない」。その場にいて力になれない自分がもどかしい。それでも同じ空間にいるだけで、池江の気持ちが痛いほど分かる。「本当につらそう。だけど、それを見て頑張りたいと思う」。親友の今を知るからこそ、樋口も今を全力で生きる。

 20年東京五輪と22年冬季北京五輪。それらは2人が目指す“約束の場所”だ。樋口は右足甲の負傷などで今季は決して満足のいく結果ではなかったが、明大でこれから過ごす時間は、そのまま北京五輪へとつながっていく。「北京五輪でメダルを獲りたい。まずは演技で失敗しないこと。その上で(3回転)アクセル、4回転も跳べないと」。栄枯盛衰が顕著な女子フィギュア界。力強く、躍動感にあふれた演技が魅力の樋口は、来季へ向けて静かに努力を重ねている。

 その一方で、樋口は池江のカムバックを迎え入れる準備を進めている。来年7月25日から始まる競泳の東京五輪の期間、会場の東京アクアティクスセンターに足を運ぶと決めた。「復帰してほしい。強くなって、帰ってきてほしい」。そう願う樋口は「競泳の(東京五輪)チケット抽選をいっぱい申し込みました」と明かす。まだ当選するか分からないが、約束の場所にどんな景色が広がっているのか見てみたい。全てを目に焼き付けたい。そこに池江がいても、いなくても、親友が目指す場所だから。

 フィギュアスケーターはそれぞれの思いをプログラムに乗せ、銀盤に立つ。逆襲の来季、親友の復帰を願う樋口新葉がSP「バード・セット・フリー」に込めるテーマはこうだ。「勇気を出して戦う姿を見せる」――。(記者コラム・大和 弘明)

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