×

40歳でJリーガーになった男の次の夢

[ 2020年10月5日 08:30 ]

 【大西純一の真相・深層】J3のYS横浜に異色の選手がいる。FW安彦考真、42歳だ。40歳でJリーガーとなり、年俸が120円ということでも知られている。そして、今季限りで現役を引退することも宣言している。横浜FCのFW三浦知良が53歳で13年ぶりにJ1出場を果たしたことを考えれば、まだまだ若い。

 9月26日のC大阪U-23戦で後半38分から出場、今季3試合目の出場を果たした。「もっと試合に絡みたい。僕の中でJリーガーの定義は、残り5分でいいからスタンディングオベーションが出る、18人の中にこういう選手が1日とでもいた方がチームが活気づくというオンリーワンをめざし続けること大事」安彦はこう振り返った。

 苦労人だけに、考え方も違う。「Jリーガーだからプロフェッショナルではない。マインドの問題。プロとは何かを突きつめないと見えてこないものがある」と、厳しく語りかける。こう考えるようになったきっかけはJリーグができた当時を知り、次世代につなぎたいと考えているからだ。あこがれの存在だったJリーグが28年たち、「いまどこへ向かっているのか議論されていない。誰かが語らないと」と不安に感じているという。

 これだけいえる背景には異色の経歴もベースにあった。高校卒業後、ブラジルに渡ってプレー。帰国後大宮の通訳やサッカースクール、高校の指導者などを経て一念発起し、Jリーガーを目指した。

 「スポーツ界を変えたいという思いがあったが、なかなか僕の言葉だけじゃ変えられない。ずっと扉をノックし続けて、スポーツ界を変えなきゃ駄目だ、子どもに無理をさせては駄目だ、と言い続けたが、声は簡単には届かなかった。ノックしている姿にみんながいろいろいってくれるから、やっている気になる。でも、何かパンチ力を付けないと扉の向こうには声が届かない。それならば選手だ。声のボリュームがあがって扉を開けられるのではないか」

 こう考えて30代後半から必死でトレーニングを積んでJリーガーを目指した。そして18年に40歳でJ2水戸と契約した。出場機会はなく、1年間で契約満了となったが、J3のYS横浜に移籍し、Jリーグデビュー。今季で2年目だが、開幕前に今季限りでの引退を宣言している。

 「最後まで最大限の努力ができるぎりぎりの所はどこかと考えたときに、ここが潮時だと思った。もともと3年はやりたいと考えていた。やってみて1年目は初めてのJリーグだし、ヒリヒリして頑張る、2年目はYS横浜に移籍して新たに頑張る、でも次第に自分の居場所ができてくる。今季で最後と決めることでリングのコーナーに追い込まれて、ぎりぎりのところでやれる。きょうという日は来年は来ない。悔いないようにやりたい」そして、自分にプレッシャーをかける意味でもいろいろなことを発信し続けている。

 現役引退後の夢もある。「ずっとアーティストはすごいと思っていた。スポーツで表現できるのはピッチ内だけ。アーティストはたとえば絵やダンスで環境とかいじめとかいろいろと表現できる。出会う前と後で人の人生を変えられる。僕は40歳でJリーガーになったが、僕を見て人生変わった人もいると思う。それなら僕はスポーツ選手というより、アーティストの領域だと思った」環境問題などにも関心を持ち、これまでの経験を生かして環境アーティストやスポーツメンターを目指していくという。

 残り3カ月、目標はやはりゴールだ。「FWなので、ゴールを決めてこそJリーガー。FWの責務でもある」そして「残り5分とか10分とか限られた時間のワンチャンスにどうやってゴールを取るか、神経を研ぎ澄まさないといけない。野球のリリーフピッチャーと同じ」神経を研ぎ澄ますために食生活も変えた。今季から肉は食べず、野菜だけにした。最近は試合や練習に飢餓状態で臨み、神経を研ぎ澄まそうと考え、朝食をセーブしているという。

 「狩りをするライオンと一緒で、食べると満足する。五感に頼るのではなく、別の感覚が研ぎ澄まされるのではないかと思ってちょっとしか食べず、終わった後にしっかり食べるようにしている」コンディションは昨季よりもいいという。

 夢の実現のための時間は少ない。それでも「みんなと喜びたいむという気持ちに変わりはない。ゴールで日本中の空気を変えてほしいと思う。

続きを表示

2020年10月5日のニュース