「どうする家康」ネット号泣 台本になかった“女大鼠の平伏”演出語る裏側「武士の心境」松本まりかに感謝

[ 2023年7月9日 06:00 ]

大河ドラマ「どうする家康」第25話。鳥居元忠(彦右衛門)が断った介錯役を瀬名(有村架純)に頼まれた女大鼠(松本まりか・右)は…(C)NHK
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 嵐の松本潤(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「どうする家康」(日曜後8・00)は今月2日、第25回が放送され、前半最大のクライマックス「築山殿事件」「信康事件」(天正7年、1579年)が描かれた。主人公・徳川家康が愛妻・瀬名と愛息・松平信康を同時に失う人生最大の悲劇。戦のない“慈愛の国”を目指し、信念を貫いた2人の最期に、号泣の視聴者が相次いだ。“女大鼠の平伏”がさらなる涙を誘い、SNS上で大反響。同回を担当したチーフ演出・村橋直樹監督に撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 「リーガル・ハイ」「コンフィデンスマンJP」シリーズなどのヒット作を生み続ける古沢良太氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ62作目。弱小国・三河の主は、いかにして戦国の世を生き抜き、天下統一を成し遂げたのか。江戸幕府初代将軍を単独主役にした大河は1983年「徳川家康」以来、実に40年ぶり。令和版にアップデートした新たな家康像を描く。古沢氏は大河脚本初挑戦。松本は大河初主演となる。

 第25回は「はるかに遠い夢」。武田四郎勝頼(眞栄田郷敦)が暴いた瀬名(有村架純)と松平信康(細田佳央太)の“慈愛の国”計画。それはやがて、織田信長(岡田准一)の知るところとなる。2人の始末をつけなければ、織田と戦になる。それでも徳川家康(松本潤)は信長の目を欺き、妻子を逃がそうと決意。一方、瀬名は五徳(久保史緒里)に「姑は悪女だ」と訴える信長宛の手紙を書かせ、全責任を負う覚悟。岡崎城を出た信康もまた、逃げ延びることを良しとしない…という展開。

 家康は“替え玉作戦”を敢行。しかし、瀬名は身代わりの女を逃した。

 二俣城。信康は「お方様は、無事お逃げになりました」という服部半蔵(山田孝之)の嘘を見抜き、自刃した。

 その十数日前、佐鳴湖畔。家康が「死んではならん。生きてくれ」と直々に説得したが、瀬名は“悪辣な妻”と語り継がれることも厭わず自刃。家族だけで静かに暮らしたいという唯一の“はるかに遠い夢”は叶わなかった。家康は最愛の妻の最期を目の当たりにし、慟哭した。

 鳥居元忠(彦右衛門)(音尾琢真)に代わり、瀬名を介錯したのは女大鼠(松本まりか)。突き刺した刀を抜くと、一歩下がり、地べたに額をつけた。

 ラストシーンの台本のト書きで、女大鼠については「そばに介錯役の大鼠」とあるだけ。平伏などの指定はない。村橋監督は「それゆえに、大鼠役の松本まりかさんから『他の家臣団たちと違い、大鼠は瀬名に対する想いを積み上げてきてはいないので、どのように自害の場にいたらいいでしょうか』と相談を受けました。このシーンに向けてのまりかさんの想いはとても強く、出演中だった舞台の昼公演と夜公演の合間に抜け出して、リハーサルに参加してくれたほど。その熱意に打たれ、もう一度、大鼠の視点で台本を読み直し、芝居のポイントを提案しました」と振り返る。

 一つは、家康が佐鳴湖畔に現れる前、彦右衛門に介錯を断られた瀬名が女大鼠に頼むシーン。「『そこで他の家臣団たちの気持ちに一歩近づきたい』とお伝えしました。まりかさんは覚悟を決めた瀬名の顔をじっとのぞき込み、近くにいた家臣の刀を奪って振り上げるというお芝居で返してくれました」。もう一つは、瀬名が自ら首を斬った後。「『武士だとしたら、介錯をした後、見事に果てた者に敬意を払い、静かに平伏しますね』と提案をしました。まりかさんがどのようなお芝居を返してくれたか…それは、視聴者の皆さんにご覧いただいた通りです。瀬名を楽にした後、地面に叩きつけるかのような平伏姿を見せてくれました。あれは、大鼠が忍びではなく、ある意味、武士の心境に近づいた瞬間なのかもしれません」と明かした。

 「撮影前から、まりかさんは『信康を半蔵が、瀬名を大鼠が、と忍び2人が介錯することには意味があるのだと思います』ということを盛んにおっしゃっていました。大鼠は代々忍びを生業としてきた一族で育ち、きっと命をお金に変えて生きてきた人なんだと思います。そんな彼女にとって、瀬名の命の使い方というものがとても新鮮で美しく映ったのではないでしょうか。そのことに対しての敬意であり、そして、仕事として数多くの命を奪ってきた大鼠にとって初めて芽生えた命を奪うことへの罪悪感。そんなものが混ざった感情が、あの強烈な平伏を生んだのかもしれません」

 ドラマ前半最大のヤマ場となった第25回。「画面内外で演じてくださったすべての人たちが、台本に書かれていること以外にも、それぞれに強い感情を持って撮影に臨んでくれました。個人的な撮影プランとしては、ルーズショット(被写体を遠目に捉える構図)を多用して、客観的に彼らを見るような“引いた視点”で今回の話を捉えたいと思っていましたが、すべての俳優のお芝居に強度がなければ、そのショットは成立しません」。キャストへの感謝を続けた。

 「ルーズショットの中でも感情が届く、見事な平伏を見せてくれた松本まりかさん。信康の死を告げる際、クローズアップショットがなくとも、震える声で無念さと、武士らしく主君を超える感情を出さぬよう堪(こら)えた井伊直政を表現した板垣李光人さん。画面の端でありながら信康と五徳の別れのシーンの雰囲気をつくり上げて、他の俳優たちの芝居を変えてくれた山田八蔵役の米本学仁さん…などなど。一人一人挙げていけばキリがありませんが、『どうする家康』前半のハイライトともいえる第25回は、キャスト全員がそれぞれの役を生きてくれたからこそ、悲痛な別れとなった家康と瀬名のみならず、豊かな物語になったのだと感じています。連続ドラマであるがゆえに、一人一人に向き合う時間がつくれない怠惰な演出家としては、演出の届かぬところを埋め、役を生きてくださったすべての方に感謝を申し上げたい気持ちでおります」

 ◇村橋 直樹(むらはし・なおき)2010年、中途採用でNHK入局。初赴任地は徳島放送局。13年からドラマ部。演出の1人を務めた18年「透明なゆりかご」(主演・清原果耶)、19年「サギデカ」(主演・木村文乃)が文化庁芸術祭「テレビ・ドラマ部門」大賞に輝いた。大河ドラマに携わるのは14年「軍師官兵衛」(助監督)、17年「おんな城主 直虎」(演出、第28回・第32回を担当)、21年「青天を衝け」(セカンド演出、全41回中9回を担当)に続き4作目。今作は第2回「兎と狼」、第3回「三河平定戦」、第4回「清須でどうする!」、第11回「信玄との密約」、第12回「氏真」、第18回「真・三方ヶ原合戦」、第25回「はるかに遠い夢」を担当している。

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