小田和正 昔を美しく今を優しく 2022・9・28横浜アリーナ

[ 2022年9月30日 08:00 ]

横浜アリーナのステージを感無量の面持ちで歩く小田和正
Photo By 提供写真

 【牧 元一の孤人焦点】長く待ち望んでいた時だ。2022年9月28日午後6時30分すぎ。6月3日に始まった全国ツアーの一環。照明が落とされ、まだ薄暗い横浜アリーナ。バンドのメンバーが所定の位置についた後、小田和正が姿を見せ、アリーナの客席の中央付近まで伸びたステージへと足早に向かった。

 溢れるばかりの拍手。主役を煌々と照らし出すスポットライト。小田はアコースティックギターを弾きながら歌い始めた。♪ずっと 待っていた 風が 今 吹いた…。1曲目は「風を待って」。今年6月15日に発売されたニューアルバム「early summer 2022」を聴いて以来、ずっと待っていたのは、この瞬間だった。

 小田の生の歌声を聴くのは、昨年12月1日に千葉・舞浜アンフィニティーシアターで収録されたTBS「クリスマスの約束2021」(同24日深夜放送)以来だった。

 繊細で高く伸びやかな声はいまなお健在だ。

 最近のツアーではアリーナに張り巡らされたステージの上を走るのが恒例になっていた。普段からトレーニングを積んでいる小田の剛健ぶりを象徴する場面だ。しかし、既に75歳。昔以上に肉体に影響が出ることは間違いない。その後の歌唱を考えるなら走らない方が賢明だ。ところが、早くも1曲目の後奏で、短い距離ながら走った。

 3曲目が終わった後のMCで「昨日は力んで疲れた。今日はさらに力む」と話して盛大な拍手を浴びた。

 4曲目は「秋の気配」。オフコース時代の曲だ。♪こんなことは 今までなかった 僕があなたから 離れてゆく…。男性の身勝手な心情を歌っているが、発売当時から女性ファンの人気が高かった。この旋律を聴くと、今でもあの頃の情感がよみがえる。甘く切ない。1977年、小田が30歳の頃に歌った曲を、45年が経過した2022年の今、75歳であの頃と同じような美声で歌うことにファンタジーを感じた。

 ツアー恒例の映像企画「ご当地紀行」を挟んで後半。ニューアルバムに収められた「so far so good」でスタートし、スタンダードナンバーなどで会場を盛り上げた。

 終盤で「こんど、君と」を歌う前、小田は感極まって言葉を詰まらせた。その理由を「誕生日の祝いとして、スタッフがリハーサルの時、『こんど、君と』を歌ってくれて、とても感激した」と説明した。

 「こんど、君と」はNHK「みんなのうた」放送開始60年記念ソングで、ニューアルバムに収められている。小田は以前、この曲に関して「みんなのうた60年に向けた思いとコロナに対する気持ちという色合いの違う2つの内容をいかに紡いでいくか悩みながら書いた」とコメントしていた。コロナ禍でコンサート中に観客が一緒に歌うことを自粛している現在、♪声を合わせて あの歌を いつか みんなでまた うたおう…という歌詞が胸に響く。この日、小田は客席に「いつか、みんなとも一緒に歌えると信じてます」と語りかけ、この曲を歌い始めた。

 その歌声を聴きながら、こう思った。小田は「秋の気配」などで美しく昔を歌いつつ、「こんど、君と」などで優しく今を歌っている。真摯にファンやスタッフと向き合い、2022年という時代と向き合っている。

 アンコールでは、会場の各所に放たれた大風船を投げたり蹴ったりする姿、公演開始から2時間30分近く経過したにもかかわらず走る姿を目にすることができた。ツアーはさらに続くが、まだまだ元気いっぱいだ。

 全ての曲が終わった時、胸に募ったのは、なんとも温かい気持ちだった。そして、そんな希少な感情を、小田はこれからもずっと終わることなくステージから与え続けてくれるだろうと夢想した。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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