宇梶剛士 目で語る生きざま 波瀾万丈の人生を経てたどり着いた演劇の道

[ 2022年5月15日 08:15 ]

幅広い演技が魅力の宇梶剛士(撮影・会津 智海)
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 【俺の顔】威圧感のあるこわもてな役を演じたかと思えば、素直で実直な男、コミカルな役柄など、幅広い演技力が魅力の俳優宇梶剛士(59)。今年4月からフジテレビ「ナンバMG5」(水曜後10・00)でヤンキー一家の父親役で出演。一度見たら忘れられない眼力には、これまでの生きざまが詰まっていた。(小田切 葉月)

 きりりとした太い眉に、二重の大きな目。笑うと目元の笑いじわが引き立ち、白い歯がのぞく。終始和やかな雰囲気で撮影が進む中、カメラマンがにらみを利かせた表情をリクエスト。「怖すぎると言われるからいつもは断ってるんだよ」と話しつつ、「今回は特別ね」と柔らかい口調で応じた。凄みのある眼力でカメラをにらみ付けると、現場は一気に緊張感が高まる。

 「生きざまは顔に出る。自分に恥ずかしくないような生き方をしていきたいね」。波瀾(はらん)万丈の人生を振り返った。

 小学生の時に読んだ番長漫画に登場する“いい不良”に憧れた。特に読んでいたのは「男一匹ガキ大将」。

 「いい不良は姿勢がいい、ツバ吐かない、武器を持たない。ピンチの時に仲間を助けて、自己犠牲をいとわない。格好いいと思いましたね」

 自身も曲がったことが大嫌い。幼い時から野球を続け、高校もプロを目指し野球部に所属。しかし、部内の暴力問題に耐えきれず練習をボイコットすると、「体も大きくて顔もわざとらしいくらい目立つから、学校側から勝手に首謀者にされた。練習に参加できなくなったんです」と物憂げに語る。

 平日は4時間、土日は8時間。ボールにも触れず、グラウンドの隅に立たされ続けた。

 「その頃からグレ始めた。自分の最初の暴力事件は、友達が暴力団からお金を巻き上げられていたことを知ったから。次の日には少年鑑別所行きでした」

 脅されていた友人を思い、拳を振り上げた。ずっと夢見てきたプロ野球への道が閉ざされた。高校を中退し、気が付けば巨大暴走族のトップに君臨。その後、新たな光を与えてくれたのはチャップリンの自伝だった。

 「少年院に入った時、母から差し入れてもらいました。どんなに貧しくても俳優になるために努力し続ける姿に、胸打たれました」

 その後、定時制高校に通いながら錦野旦(73)の付き人を経て、故菅原文太さん(享年81)に弟子入り。役者として食べていけるようになる30代まで、工事現場で汗水を垂らした。

 「演劇は弱者や、何かを奪われたり失った人たちが主人公。そういった人たちを見つめる視点を持っていることが強さにつながると思う」

 そんな宇梶は現在、4月から放送のフジテレビ「ナンバMG5」で、かつては“千葉最強”の名をとどろかせた伝説のヤンキー・難破勝役を演じている。「描かれている時間としては少し昔かな」。原作は2005~08年に連載された人気漫画。常にケンカの勝ち負けにこだわるが、ヤンキー一家の父として家族を愛する役どころだ。

 「この年だし、なにか客観性を持って演じられると思っている。このドラマはヤンキーの衣を着た人情話であり喜劇。人間同士のやりとりを見てもらいたい」

 大きな目からにじみでる優しさと強さは、どこまでも真っすぐな男気があるからこそ。濃い顔に、濃い人生を感じた。

 《「ナンバMG5」出演中“楽しい”ヤンキー一家》宇梶が出演中の「ナンバMG5」は、主演の間宮祥太朗(28)演じる筋金入りのヤンキー一家「難破家」の次男・剛が「普通の高校生になりたい」と家族に内緒で健全な高校に入学する高校逆デビュー物語。妻役の鈴木紗理奈(44)らと、ドタバタな家族劇を繰り広げている。意識しているのは、不良時代に先輩に招かれて訪れた“楽しい家”の雰囲気。「だいたい母ちゃんが威張ってる家が楽しいんですよね。明るくて元気。そんなイメージはドラマで生きてると思います」と語った。

 ◇宇梶 剛士(うかじ・たかし)1962年(昭37)8月15日生まれ、東京都出身の59歳。定時制高時代は大学推薦入学の話も出るほどバスケットボールに打ち込む。83年「青森県のせむし男」で舞台デビュー。2004年公開の映画「お父さんのバックドロップ」で初主演した。血液型B。

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