乙武洋匡氏 五輪王者超えで「パラこそ最高峰」第一歩に

[ 2021年9月1日 05:30 ]

パラ陸上男子走り幅跳びで五輪王者超えの記録を狙うレーム
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 【乙武洋匡 東京パラ 七転八起(8)】今大会で最も楽しみにしていた日が訪れた。1日夜、陸上男子の走り幅跳びにマルクス・レームが登場する。

 14歳の時、水上競技のウエークボード練習中の事故で右脚の膝下を失った。2年後には義足をつけて競技復帰。その3年後には陸上に転向し、走り幅跳びでその才能を開花させた。12年のロンドン大会は7メートル35、16年リオ大会では8メートル21の大会新記録で2連覇を達成。今大会では3連覇の期待が懸かっている。

 だが、レームにはもう一つの戦いが待っている。それは「オリンピックとの戦い」だ。先月開催された東京五輪の金メダリスト、ミルティアディス・テントグルの残した記録は、8メートル41。だが、レームの自己ベストは8メートル62で、テントグルの記録を大きく上回っている。日頃の実力を発揮することができれば、パラ王者が五輪王者を超えることになるのだ。

 レームには夢がある。それは「五輪への出場」。しかし、リオ大会、東京大会と、2大会続けてIOCに出場を拒否されている。「装具が有利に働いていないことの証明が不十分」というのがその理由だ。しかし、12年のロンドン大会では、当時、パラ陸上界で無敵の強さを誇った義足のランナー、オスカー・ピストリウスが五輪出場を認められ、男子400メートルでは準決勝にまで進出している。ピストリウスが認められ、レームが認められない理由はどこにあるのか。

 その違いは彼らの記録にある。ピストリウスの記録ではメダルに届かないが、レームの記録では金メダルすら獲得してしまう。「障がい者が努力して健常者に挑んだ物語」なら美談になるが、「障がい者が健常者を凌駕(りょうが)した物語」は受け入れられないのだろう。

 競技の公平性を保つため、今後もレームのような選手の出場が認められる可能性は低い。だが、そうして両者を分かち続ける限り、今後は「世界最高峰の大会はパラリンピック」という位置づけになっていくだろう。そんな時代に向けた第一歩が、私たちの目の前で刻まれる。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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