谷川浩司九段 藤井2冠のダブル防衛戦展望「重圧は挑戦者の2人にある」

[ 2021年6月5日 05:30 ]

自著「藤井聡太論 将棋の未来」を持つ谷川浩司九段
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 将棋の谷川浩司九段(59)が今月開幕する藤井聡太2冠(18)のダブル防衛戦を展望した。挑戦者はあす6日開幕の棋聖戦5番勝負が渡辺明王将(37)=名人と棋王の3冠=、29日開幕の王位戦7番勝負は豊島将之竜王(31)=叡王との2冠。谷川は戦後5人いる中学生棋士の先輩で棋聖と王位の経験者。先月刊行した著書「藤井聡太論 将棋の未来」(講談社+α新書)での多角的分析も基に最大12番勝負を読み解いた。

 タイトルは防衛して一人前と言われる。勢いそのままに挑戦して奪取。そこまではあり得ても翌年立場を変え、勢いを保った挑戦者を退けることがいかに困難か。加えて今回迎え撃つのは名人、竜王2大タイトルの両雄だが「挑戦者2人は先輩。精神的重圧は挑戦者にあるのではないか」と谷川は分析する。

 藤井が昨年、タイトル初挑戦奪取した棋聖戦。渡辺は当時「終盤力が違い過ぎる」と敗因を語った。それを補うすべとして採用するとみるのが、昨年唯一勝った第3局での綿密な準備。対局中の読みではないという点で、渡辺自らが語った「弱者の戦い方」だ。

 「形勢、持ち時間でもリードして終盤に入る。藤井さんが勝負手を連発しても時間を残せば乗り切れます」。年明けからのトリプル防衛戦を先月末、全て防衛し「棋聖戦に専念できるのは有利な条件です」と谷川。一方、豊島とは初対戦から6連敗後、1勝を返した。「1勝したことで自然体でいける。豊島さんはかなり危機感を抱いて臨むのでは?」とした。

 本来、守る側にあるはずの重圧。藤井に限ってはその存在を疑問視する。

 3勝1敗だった昨年の棋聖戦、4連勝だった王位戦。その勝利直前「気持ちの変化が指し手などに出るのか、関心があった」。83年、21歳2カ月で史上最年少名人に輝いた自身は、決着局の決め手を見つけた瞬間、手が震え吐き気をこらえるためハンカチを口に押し当てた。そういう様子が、藤井にはない。

 「タイトル戦も、練習将棋も全て一局として向き合う。対戦相手への意識もなければ、震えたりしないことに納得いく」。その驚きが執筆の原点。「いろいろ予測してもほとんど超えられてしまう。予想を超えるという意味では大谷翔平選手と共通する」。最大12番勝負の結末についても予言を避け、「両方を防衛すれば、来年の防衛戦まで増やすだけ。19歳、20歳で第一人者という可能性もある」。同年齢では1冠ずつだった、羽生善治九段超えにも言及した。(筒崎 嘉一)

 《全8冠の独占「可能性ある》同書では棋士の全盛期に触れている。「25歳から30歳、それ以降はその人次第」。羽生は当時の全7冠制覇が25歳だった。現在の全8冠を藤井が独占する公算については「まだ現実的ではないが、可能性はある。あと5年は伸びるし、そう期待させる現状と年齢です」。羽生が全7冠制覇した95年度、勝率・836を残したことにも触れ「低段ではなく、トップ棋士での8割は圧倒的」。昨年、2冠で・846だった藤井への驚きも改めて示した。

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