大河「麒麟がくる」長谷川博己 「受け」から「攻め」の頂点へ

[ 2021年2月7日 12:00 ]

NHK大河ドラマ「麒麟がくる」で明智光秀を演じる長谷川博己(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】役者は芝居でなるべく自分の個性を発揮したいと思うだろう。主役となれば、なおさらに違いない。ところが、7日が最終回のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」に主演する俳優の長谷川博己(43)は長く個性を抑え続けてきたように見える。

 言い換えれば、それは「受け」の芝居。自分が個性を発揮すべく攻めるのではなく、自分が一歩引くことで共演者たちを光らせる。例えば、前半は斎藤道三を演じた本木雅弘、中盤からは織田信長を演じた染谷将太。もちろん、本木、染谷それぞれの名演があったが、長谷川が出過ぎないことで2人がさらに際立つ面を強く感じた。それは、群像劇でもある大河ドラマに主演する役者の重要な役割だろう。

 脚本家の池端俊策氏はこう振り返る。「光秀は相手が言ったこと、行動したことに反応する『受ける芝居』が多く、脚本も『……』」となっていることが多かった。解釈の仕方や受け止め方、大げさに反応したらいいのか、ちらっと瞬きをする程度の反応なのか、大変難しい役だったかと思う」。

 長谷川の共演者に対する反応のさじ加減は絶妙だった。それゆえに、本木や染谷がさらに輝き、光秀の母・牧を演じた石川さゆりや妻・煕子の木村文乃、信長の妻・帰蝶の川口春奈らも魅力的にした。

 池端氏は「光秀は僕だと思って書き、そこに長谷川さんが見事に入り込んでくれたと思う。僕は光秀が長谷川さんで大正解だったと思っている」と話す。

 その長谷川の芝居が転換した。最終回に向けて徐々に熱さを帯びるようになっていたが、その沸点が1月31日の放送だ。徳川家康を供応する場面で信長に足蹴(あしげ)にされ、森蘭丸に「下がれ!」と押されると、その蘭丸を投げ飛ばして、空手チョップまで食らわした。この場面の形相は異様。信長を見つめる目が完全に飛んでしまっていた。信長の狂気を上回るような光秀の狂気。長谷川の「攻め」の芝居を実感した。

 ドラマ関係者は「長谷川さんは、どうやって本能寺まで至ろうか、常に考えていた。キャラクターの作り方で、迷い、悩むこともあったと思う。だが、最後の頃は楽しそうに演じていた。本能寺のロケで、出し切った印象だった」と明かす。長く抑えて来たものを解き放つのはさぞや心地よかろう。

 そして、7日の最終回で、われわれは「攻め」の頂点を目にすることになる。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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2021年2月7日のニュース