「エール」薬師丸ひろ子“魂の讃美歌”3分「復活の思い」自ら提案 ネット涙も 終戦描写「いつも悩み」

[ 2020年10月16日 08:15 ]

連続テレビ小説「エール」第90話。祈るように讃美歌を歌う光子(薬師丸ひろ子)(C)NHK
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 俳優の窪田正孝(32)が主演を務めるNHK連続テレビ小説「エール」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)は16日、第90話が放送され、ヒロイン・音(二階堂ふみ)の母・関内光子役を好演している女優の薬師丸ひろ子(56)が“魂の歌声”を披露。SNS上で反響を呼んだ。終戦を迎えた思いを讃美歌に込めたが、実は薬師丸自らのアイデア。主人公・古山裕一(窪田)が戦後に名曲「長崎の鐘」などを生む大きな背景となる今作最大のヤマ場の1つとなった今週第18週「戦場の歌」を締めくくる重要なシーン。薬師丸と、脚本も執筆したチーフ演出の吉田照幸監督(50)に舞台裏を聞いた。

 インターネット上には「薬師丸さんの歌が朝から染みる」「薬師丸さんの朝ドラ歌唱シーンは語り継がれることでしょう。『あまちゃん』と『エール』」「今週のエールは毎日涙。今日は薬師丸ひろ子の歌声に涙」などの書き込みが相次いだ。

 朝ドラ通算102作目。男性主演は2014年後期「マッサン」の玉山鉄二(40)以来、約6年ぶり。モデルは全国高等学校野球選手権大会の歌「栄冠は君に輝く」などで知られ、昭和の音楽史を代表する作曲家・古関裕而(こせき・ゆうじ)氏(1909―1989)と、妻で歌手としても活躍した金子(きんこ)氏。昭和という激動の時代を舞台に、人々の心に寄り添う曲の数々を生み出した作曲家・古山裕一(窪田)と妻・関内音(二階堂)の夫婦愛を描く。

 第90話は、1945年(昭20)6月、豊橋は空襲により市街地の7割が焼き尽くされた。そして、長かった戦争がようやく終わる。梅(森七菜)を助けようとして戦火に巻き込まれた岩城(吉原光夫)は入院生活を続け…という展開。

 <※以下、ネタバレ有>

 一方、一足先に1人、故郷・福島から東京に戻った裕一は、かつて音の音楽教室の生徒で予科練に合格した弘哉(山時聡真)も戦死したことを母・トキコ(徳永えり)から告げられ、ショックを受ける。光子(薬師丸)は焼け跡の関内家の瓦礫に腰を下ろし、鎮魂歌のように讃美歌を歌う…。

 薬師丸が披露したのは、讃美歌496番「うるわしの白百合」。復活祭の時などに歌われる。吉田監督は「戦争に対する悔しさを光子さんに担っていただこう」と当初は「戦争の、こんちくしょう!こんちくしょう!」と唸りながら地面を叩くシーンを用意していたが、全く異なるものに変更。「選曲も含め、歌はご本人からの提案です」と秘話を明かした。

 薬師丸の歌唱は約3分。この間、関内家の思い出(回想)が走馬灯のように流れた。

 吉田監督は「薬師丸さんからアイデアを頂いて、台詞による表現とは別の何かが生まれるんじゃないかと思いました。ただ、撮影してみないことには、何が起こるか正直予想もつかず。映画の1シーンのように、視聴者の皆さんもそれぞれに何かを感じていただき、ご自分のことを振り返っていただくような時間。朝ドラの15分の中でやるには多分な勇気が要りましたが、さすがは薬師丸さん。喪失感が際立つと同時に、単純な励ましとはまた違った、悲しみに立ち向かう母親の力強さが生まれたと思います」と絶賛した。

 当の薬師丸は「これまで安隆さん(光石研)や子どもたちと暮らした年月、そして強くて優しいお母さんである光子が終戦を迎えた時、どうするだろうかと、監督とも話し合い、受け止め切れない現実に救いを求め、(キリスト教徒として)長年歌ってきた讃美歌が自然と出てきたというシーンになりました」と説明。

 「光子は歌手ではないので、できるだけ“歌わない”ということを意識しました。このシーンの前に空襲のシーン(第89話)を撮影して、砂ぼこりの中、大きな声を張り上げたりしたので、決して声が出やすい状況ではなかったのですが、それがかえってシーンとして現実味が出せたのかなと思っています」と収録を振り返った。

 「これまでも、終戦が描かれる作品に出演する時は、その時の感情を想像しますが、悔しいのか、虚無なのか、この表現でいいのか、足りているのか、体の重心をどこに置いていいのかと、とても難しく、いつも悩み、不安があります」と揺れる心境も告白。「この讃美歌の歌詞に出てくる百合には“復活”という意味合いもあります。戦争を経験していない私たちには、今を生き抜き、前を向いてに頑張ろうという復活の思いが、唯一表現できることではないかと思い、この曲を歌いました」と熱唱に込めた思いを明かした。

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