「いだてん」宮藤脚本の凄さ 初回伏線“治五郎が四三を抱っこ”第5話で回収 複雑構成も痛快

[ 2019年2月10日 08:00 ]

大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」第1話の1場面。初マラソンで世界新を出した四三(中村勘三郎、左)を抱きかかえる治五郎(役所広司)の“抱っこ”が伏線に(C)NHK
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 歌舞伎俳優の中村勘九郎(37)が前半の主演を務めるNHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」(日曜後8・00)は10日、第6話「お江戸日本橋」。第1章「ストックホルム大会編」の後半がスタートする。

 第5話(2月3日)は「日本のマラソンの父」と称される主人公・金栗四三(勘九郎)と柔道の父・嘉納治五郎(役所広司)の抱擁が第1話のラストにつながり、伏線を回収。なおかつ、四三が優勝を遂げる「羽田のオリンピック予選会」は昭和の大名人と呼ばれる古今亭志ん生(ビートたけし)による落語という設定で、オリジナル脚本を手掛ける宮藤官九郎氏(48)の筆が冴え渡っている。膨大な資料を咀嚼(そしゃく)し、複雑だが、緻密な構成と仕掛けで、その分、カタルシスや感動、痛快さも大きい。2013年前期の連続テレビ小説「あまちゃん」でもタッグを組んだ制作統括の訓覇圭チーフプロデューサーとチーフ演出の井上剛氏が“宮藤脚本”の魅力について口を揃えた。

 大河ドラマ58作目。「あまちゃん」で社会現象を巻き起こした宮藤氏が大河脚本に初挑戦。20年の東京五輪を控え、テーマは「“東京”と“オリンピック”」。日本が五輪に初参加した1912年のストックホルム大会から64年の東京五輪まで、日本の激動の半世紀を描く。“近現代大河”は86年「いのち」以来33年ぶり。

 勘九郎と俳優の阿部サダヲ(48)がダブル主演。勘九郎はストックホルム大会に日本人として五輪に初参加した金栗四三(かなくり・しそう)、阿部は水泳の前畑秀子らを見いだした名伯楽で64年の東京大会招致の立役者となった新聞記者・田畑政治(まさじ)を演じる。主演リレーは00年「葵 徳川三代」以来19年ぶりとなる。

 落語家・古今亭志ん生(1890〜1973)が物語をナビゲート。志ん生役にビートたけし(72)、若き日の志ん生・美濃部孝蔵役に俳優の森山未來(34)を起用。志ん生の視点が加わることにより、ドラマは重層的になる。

 第5話は1960年(昭35)、志ん生の高座からスタート。「日本橋に魚河岸が来る前は芝の浜に魚河岸がございまして…」。浜辺で財布を拾ったが、酒を飲んだせいで、夢になってしまう魚屋の噺「芝浜」を始めたかと思いきや「…で、そこを通り越しまして、南へ下りますと、品川の宿…さらに南へ行きますと、羽田…そこで日本で初めてのオリンピックの予選大会が開かれたという…」。時は1911年(明44)11月19日へ。四三がマラソン(10里、25マイル)に初挑戦する。

 羽田運動場〜東神奈川の折り返しコース。四三ら参加者19人の激走は孝蔵(森山)の“実況”の下、「穴守稲荷神社 2・0km」「多摩川土手 4・8km」「六郷橋 8・2km」「川崎 9・6km」「鶴見川 13・0km」「東神奈川 折り返し地点」や順位の表示が入り、さながらマラソン中継。

 脱落者が13人を数え、東京高等師範学校教授・永井道明(杉本哲太)が「責任問題ですよ。これは“羽田の悲劇”ですよ!」と嘉納治五郎(役所)に詰め寄った時、治五郎は双眼鏡をのぞき込み「来た!韋駄天だ!」。四三がトップで羽田運動場に帰ってきたのだ。どしゃ降りの雨の中、帽子の赤色が落ち、顔は“血まみれ”のよう。このシーンは第1話のラスト3分30分にも登場し、演出は「まるで歌舞伎の隈取」と話題を呼んだ。

 2時間32分45秒の世界新。ゴールテープを切り、フラフラの四三を治五郎が抱きかかえる。「金栗君、君こそ世界に通用する韋駄天だ!」。四三の脳裏には、幼少期の思い出がよみがえる(第2話、第3話の回想)。「嘉納先生に抱っこしてもろうたら、丈夫な子に育つばい」(祖母・金栗スマ:大方斐紗子)「嘉納先生に抱っこばしてもろうたけん、もう大丈夫たい」(父・金栗信彦:田口トモロヲ)。第2話(1月13日)は四三の幼少期が描かれ、四三が生まれた1891年(明24)、30歳の治五郎は四三の出生地・熊本にいた。第五高等中学校(のちの熊本大学)の校長に就任したのだった。

 体の弱い四三(久野倫太郎)は5歳の時、治五郎に抱っこしてもらい、丈夫になるため、父に連れられて春富村から五高のある熊本市に出掛ける。五高は人だかりで、柔道をしている治五郎の姿を建物の外から見るのがやっと。四三は胃弱の父に代わり、夏目漱石と思われる男性に抱っこされ、治五郎を目に焼き付けた。家に帰ると、父は「嘉納先生に抱っこばしてもろうたけん、もう大丈夫たい」と家族に“ウソ”をつく。

 第3話(1月20日)、海軍兵学校の試験に落ちた四三(勘九郎)は東京高等師範学校に進みたい、そして、5歳の時に実は治五郎に抱っこをしてもらっていなかったことを兄・実次(中村獅童)に打ち明ける。兄は「そぎゃんことは、どうに知っとるばい。抱っこばしてもらいに、東京に行くとか。乃木(希典)将軍になる夢は断たれたばってん、嘉納治五郎を乗り越えるったぁ、とつけむにゃあ(とんでもない)!男たい!」と背中を押した。

 第5話のラストは、これら15年越しの思いが詰まった治五郎の“抱っこ”で感動的。四三は「まさか、こんな形で夢が叶うとは(孝蔵のナレーション)。ありがとうございます」と万感。永井らに水を勧められると「いや、結構です」。そして、場面は志ん生の高座へ。落語は「芝浜」をアレンジした“さげ(オチ)”で痛快。「(水は結構?)どうしてだい?世界記録がまた夢になるといけねぇ」――。

 第1話のラスト。ゴールした四三を抱きかかえる治五郎が「金栗君」の後に「君こそ世界に通用する韋駄天だ!」と言った声、四三の「ありがとうございます」も消されていた。「雨が降っていて、よく聞こえませんでしたが」という孝蔵(森山)のナレーション。2人の会話を隠してから物語を紡ぎ上げ、第5話で伏線を回収。時間が行き来する「木更津キャッツアイ」(02年)、落語を題材にした「タイガー&ドラゴン」(05年)などで視聴者を魅了してきた“宮藤脚本”の真骨頂と言えよう。

 「あまちゃん」でもタッグを組んだ制作統括の訓覇氏は昨年10月、宮藤氏の凄さについて「(頭の)容量が凄いです。自分がバイトとしたら、宮藤さんはギガバイト。原作があるわけじゃないので、スタッフが取材した膨大な情報を毎週毎週、宮藤さんと共有しているんですが、それを理解するだけで大変なことなのに、おもしろく構成される。まだ途中ですが、47話分ですからね。宮藤さんの頭のよさは日々感じています」と実感を込めた。

 今年1月、同じ質問を「あまちゃん」も手掛けたチーフ演出の井上氏にぶつけると、開口一番「言語を絶するほどの頭の良さ」と即答。「あの膨大な資料を全部、頭の中に叩き込んで、取捨選択して『こんなお話はどうでしょう』と構成されるんです。1話分を、たった2〜3日で。そのスピードもですが、『どうやったら、この資料1個から、こんなことを思い付くんだろう』と、その発想力にも毎回、舌を巻いています」と明かした。

 実在のモデルがいるドラマは宮藤氏にとって初挑戦。井上氏は「今回のような史実を基に創作する側面は『あまちゃん』の時にはなかったので、ビックリしています。黒柳徹子さんの半生を描いた『トットてれび』(16年)も演出しましたが、同じ史実をベースにしたものでも、あれは渥美清さんや森繁久彌さんら、視聴者の皆さんがご存知の有名人を今の役者が演じると、どういうエネルギーが出るかという企画。『いだてん』は真逆で、視聴者の皆さんがあまりご存知ない“無名”の登場人物ですが、宮藤さんが資料から膨らませたキャラクターまで描き込んでいるので、役者も非常に演じやすい。宮藤さんが膨らませた部分が、後から遺族の方にお話を聞いてみると、あながち間違っていないんです。宮藤さんの“予知能力”というんでしょうか。宮藤さんには驚かされてばかりです」と証言した。

 第6話は四三と三島弥彦(生田斗真)が羽田予選会で快走したことを喜ぶ治五郎だったが、オリンピックへの派遣費用が莫大で頭を抱える。さらに四三は負ければ腹切りかと恐縮し、弥彦は帝大後の進路を考えたいと出場を断る…という展開。ここから一層、宮藤氏の筆に期待が高まる。

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