「さよならミニスカート」オジさんにも読んでほしい少女漫画

[ 2018年12月10日 08:30 ]

「さよならミニスカート」の1場面(C)牧野あおい/集英社
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 少女漫画誌「りぼん」(集英社)で連載中の「さよならミニスカート」(牧野あおいさん作)の人気が、10代の少女にとどまらぬ広がりをみせている。このほど単行本1巻が発売された。

 連載が始まった今年9月号(8月発売)では、相沢聡一編集長の「この連載は、何があろうと、続けていきます。この漫画に無関心な女子はいても、無関係な女子はいない」との声明文が掲載され、漫画ファンの話題となった。漫画誌の編集長が新連載のスタートに際して1ページを割いて、声明文を掲載するなど聞いたことがない。

 「少年ジャンプ+」「LINEマンガ」「コミックシーモア」などの漫画サイトでも配信中で、「りぼん」のメーン購買層である女子小中学生以外にも読者が広がっている。漫画をスマホで読むことも増えた今、少女向け、オヤジ向けなどと気にして読むこともないのかもしれない。

 主人公はアイドルグループでセンターを務めた元メンバーの少女。ファン交流イベントで起きた傷害事件から男性への恐怖心が芽生えたことなどから、学校制服のスカート着用を拒否。スラックスを履き、周囲の人との関わりを断ち、心を閉ざしている姿が描かれる。

 社会事件を担当する記者としては、女性アイドルグループのメンバーやシンガーソングライターの女性が、握手会や路上でファンの男性に切りつけられた事件を思い出す。当時、物理的にも精神的にも近くなったアイドルとファンとの距離が議論された。

 だが、この漫画が一番描きたいのは、そこではなさそうだ。主人公に粘着するストーカーもいるが、もっと多くの女性が直面する問題が描かれている。

 序盤の大きなヤマ場は、クラスのアイドル的美少女が遭った痴漢事件。「そんなミニスカートを履いてたら、痴漢に遭っても仕方ない」「男に媚びて履いてるんだろ」という男子生徒に、主人公は「あんたらみたいな男のために履くんじゃない」と激怒する。

 そんな女VS男の構図に、この作品は女VS女の構図を差し込んでくる。痴漢に遭った美少女が「みんな騒ぎすぎ。たかが太腿」と言いのけて男子の心をつかみ、美少女のために激怒した主人公が“困ったちゃん”扱いされてしまうのだ。

 その後も、この美少女は女性専用車両について「私たち女だけで車両を独占するのは申し訳ない」と発言。女性専用車両に乗る女子を自意識過剰であるような空気を作り上げた上に、男子人気をさらに高めてしまう。

 こうした女子同士の心理戦は、女子向け漫画では描かれてきたのかもしれないが、少年漫画で育ってきた記者は読み慣れていないので面白い。ただ、漫画でなければ、記者はこの美少女にだまされているような気もする。

 それはともかく、ミニスカートをめぐる男女の意識のズレなどは、性的な議論に踏み込む可能性もあって「りぼん」らしからぬ作品とも思える。いや、ミニスカートを拒否し、女性である自分に戸惑う主人公の悩みは、むしろ“女の子”から女性に変わって行く年代の「りぼん」読者に必要なテーマかも…などと口を濁すだけの大人より、よほど頼りになる漫画かもしれない。

 ただ、この作品が本当に面白いのは、困難にぶつかり、傷ついた少女が成長し、周囲との絆を強めていく過程であり、彼女を見守る男子と距離を縮めていく姿だ。社会派にみえて、王道の少女漫画かもしれない。

 いろいろな意味で漫画好きのオジさんにも、オススメしたい少女漫画だ。(記者コラム)

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