“盟友”フジ石原隆氏が語る三谷幸喜氏の凄み 企画力に感嘆 「古畑任三郎」誕生秘話明かす

[ 2018年4月14日 07:00 ]

脚本家・演出家の三谷幸喜氏。数々の作品でタッグを組んだフジテレビの石原隆氏が三谷作品の魅力や“盟友”との秘話を明かした
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 脚本家・演出家の三谷幸喜氏(56)がミステリーの女王アガサ・クリスティーの名作を脚色するドラマ第2弾、フジテレビ「黒井戸殺し」が14日午後7時57分から3時間スペシャルで放送される。三谷氏とタッグを組み、ドラマ「振り返れば奴がいる」「古畑任三郎」「王様のレストラン」や映画「ラヂオの時間」「THE有頂天ホテル」「ザ・マジックアワー」など数々のヒット作を生み出した名プロデューサーで、現在は取締役編成統括局長を務める石原隆氏(57)を直撃。三谷作品の魅力や“盟友”との秘話などを聞いた。

 1980年代の終わりから90年の始めのフジテレビには「やっぱり猫が好き」「夢で逢えたら」「カノッサの屈辱」「カルトQ」「NIGHT HEAD」など革新的な深夜番組が次々と生まれた。当時、若手社員に深夜帯を任すシステムがあり、石原氏は3代目の“深夜の編成部長”を担当。シチュエーションコメディー「やっぱり猫が好き」は三谷氏も脚本を務めたことから、あいさつは交わしていたが、実際に一緒に仕事をしたのは連続ドラマ「振り返れば奴がいる」(93年1月クール、水曜後9・00)が最初だった。

 織田裕二(50)と石黒賢(52)が主演した医療ドラマ。腕は天才的だが冷酷な司馬(織田)と正義感あふれる石川(石黒)、2人の外科医のコントラストを劇的に描き、ラストシーンの“衝撃”は今も語り継がれる。三谷氏初の連ドラ初脚本となった。

 当初予定していた企画が急きょ白紙になり、前任者から石原氏が引き継いだが、その時、既に放送(1月クール)前年の11月。織田と石黒の出演は決まっており、クランクインが1カ月後に迫る中、石原氏の頭に浮かんだのが三谷氏だった。

 当時、流行していたトレンディードラマとは異なり「幾何学的といいますか、作家の私小説的な物語などとは違い、パズルのように組み立て、積み上げる作品をイメージしていたので、三谷さんの作り方には非常に興味があり、相談してみようと思いました」と白羽の矢を立てた。

 三谷氏は当時、主宰する劇団「東京サンシャインボーイズ」が大人気で、次の舞台の稽古中。東京・中野の稽古場に出向き、ファミリーレストラン「サンデーサン」で執筆を依頼し、引き受けてもらった。「土壇場でお願いし、本当に失礼千万でした」と振り返り「当時、もちろん三谷さんの作風は存じ上げていましたが、ここまで喜劇作家として志を持っていらっしゃるとは思わず、シリアスな作品を頼んでしまいました」と苦笑いした。

 「振り返れば奴がいる」が名実ともに成功し、その後、石原氏は数々のドラマや映画で三谷氏とタッグを組んだ。三谷脚本の凄みを問うと「番組の企画そのものの発想力とセリフなど、いわゆる脚本作りのディテール、その両方が非常に高いレベルで成立している、というのが最初の印象でした。そんなことは当たり前じゃないかと思われるかもしれませんが、どちらかが優れている人はたくさんいるんですが、両方となると、なかなかいないんです。脚本家の方から企画を持ち込まれることもないわけじゃないのですが、プロデューサーサイドから企画を脚本家に提案することも多い。三谷さんは企画者であり、作家。三谷さんと企画の話をする時は、彼の方が1歩目の素晴らしいアイデアを持っているので、最初は僕が聞く側に回ることが多いです」と分析した。

 「振り返れば奴がいる」の打ち上げ。お酒を飲まない三谷氏が会場の隅でお茶を飲んでいるのに付き合っていると“2人カルトQ”が始まった。お題は2人とも大好きな「刑事コロンボ」。

 「単にクイズをするんじゃおもしろくないので、冗談半分で、勝った方が次のドラマの企画を決められることにしました。三谷さんが勝ったら、三谷さんがやりたい企画を僕が死に物狂いで会社に通す。僕が勝ったら、三谷さんは嫌いな企画でも脚本を書いてください、と。彼がアッという間に勝ってしまったので『分かりました。三谷さん、何が書きたいですか?』と聞くと『じゃあ、コロンボみたいなのにしましょう』と」。そこから「古畑任三郎」が生まれた。「三谷さんはきっと子供の頃から蓄えられた“おもしろいと肌身に感じた体験”が鮮烈に残っていて、熟成も加えられて、それが企画の基になっているような感じがするんですよね。たぶん一生のうちに書き切れないぐらい、無尽蔵にあるんじゃないか。毎回そう思います」と三谷氏の“企画力”に感嘆した。

 今回の「黒井戸殺し」は2015年1月に高視聴率をマークし、好評を博した「オリエント急行殺人事件」(第一夜=16・1%、第二夜=15・9%、ビデオリサーチ調べ、関東地区)に続き、ミステリーの女王アガサ・クリスティーの名作を脚色するドラマ第2弾。「別の“クリスティーもの”を見ると、意外と本質を失っている作品もあるんですが、三谷さんのアレンジはクリスティーをリスペクトして『何しろ原作が圧倒的におもしろいんだから、もう原作のままでいいんですよ』と堂々としています(三谷氏自身も『今回も可能な限り、原作通りに脚色した』と語っている)。それでいて、物語の舞台をイギリスから戦後すぐの日本に置き換えたため、どうしても矛盾があって、そのままでは成立しないことが実はたくさん起こっているんですが、それを全部、それこそ名探偵のように鮮やか解決していって。パッと見ると気付かないぐらいですが、よく見ると大変なテクニックを使っていて、今回もやはり感動しました」。クリスティーの原作を脚色するというのも、三谷氏が発案した企画だった。

 最後に、三谷氏への今後の期待を尋ねた。

 約50話あるNHK大河ドラマ「新選組!」「真田丸」を書いたかと思えば、WOWOWでワンカットドラマ「short cut」「大空港2013」に挑戦。ホームグラウンドの舞台においても、歌舞伎「決闘!高田馬場」や文楽「其礼成心中」とチャレンジ精神旺盛。石原氏は“盟友”の進取の気性を称え「例えば『連続ドラマは1クールじゃなきゃいけないの?』というようなことを、よくおっしゃったりするんですよね。作品の内容については、全く疑っていません。おもしろいに決まっているので。もう1つ、欲張りなお願いがあるとすれば、新しいドラマの構造やスタイルみたいなものを一緒に考えていけたらと思います」。誰も見たことがない画期的なドラマの誕生を楽しみに待ちたい。

 【黒井戸殺し】推理小説史上に残るクリスティーの名作「アクロイド殺し」を日本初映像化。「オリエント急行殺人事件」に続き、狂言師の野村萬斎(51)が主演し、名探偵・勝呂武尊(すぐろ・たける)を演じる。物語の舞台を昭和27年(1952年)の日本に置き換え。名探偵ポワロ→勝呂(萬斎)と相棒を組み、事件の謎に立ち向かうシェパード医師→柴平祐は大泉洋(45)が演じる。余貴美子(61)草刈民代(52)向井理(36)佐藤二朗(48)和田正人(38)が三谷作品に初参加。三谷作品の常連と言える松岡茉優(23)秋元才加(29)寺脇康文(56)藤井隆(46)今井朋彦(50)吉田羊(年齢非公表)浅野和之(64)斉藤由貴(51)遠藤憲一(56)と豪華キャストが勢揃いした。演出は「世にも奇妙な物語」シリーズや「リーガルハイ」シリーズ、「マルモのおきて」などの城宝秀則氏が担当した。

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