見たことない藤井四段の姿、悪手こそハイライトの現代将棋観戦

[ 2017年12月28日 10:20 ]

叡王戦本戦1回戦で深浦九段(左)に敗れ、悔しさをかみしめる藤井四段(右)
Photo By スポニチ

 これだけ感情をあらわにしたのはプロ入り後、初めてだろう。23日に行われた将棋の叡王戦本戦トーナメント1回戦で、藤井聡太四段(15)がA級棋士の深浦康市九段(45)に逆転で敗れ、8強入りを逃した。今期からタイトル戦に昇格した同棋戦の初代保持者の座を逃すとともに、3月開幕予定のタイトル戦7番勝負に中学生のうちに出場する最後の機会を失った。

 両者持ち時間の3時間を使い切り、166手の熱戦。負けを悟った瞬間からの藤井は、まさに中学生の姿を見せた。視線が盤面を離れて宙をさまよい、脇息(きょうそく=ひじ置き)に伏せったかと思うと、まるでやけ酒のように短い間にグラスのお茶を5度も口をつけた。投了で下げた頭がいつまでも上がらず、さらに下がった光景も初めて見た。幼少期に対局で敗れると常に泣き叫んでいたというエピソードが、急に真実味を帯びて感じられた。

 主催社のドワンゴがネット中継する「ニコニコ生放送」の将棋番組では、局面が動くたびに形勢をコンピューターソフトの評価値で表示。解説陣もこれを見ながら解説を進める。評価値は有利な方をプラス、不利な方をマイナスとして、最大9999までの値で示される。

 この対局は藤井が序盤からリードし、終盤の入り口で2000を超える大差がついていた。だが攻め続けていた藤井が秒読みに追われてやや消極的な手を指した瞬間、評価値は一気にニュートラルに戻った。視聴者からは「あああああ!」との驚嘆コメントが乱立した。この後は「両者が最善の手を指していくと千日手指し直しになる」という局面も出現。それまで冷静に解説していた中村太地王座(29)も、思わず興奮を隠せなかった。

 ソフトによる評価値は原則として「お互いに最善の手を指していく」ことを前提として計算される。そのため良い手を指しても急に良くなることがない一方で、悪い手を指すとあっという間にリードを失ったり、マイナス値が跳ね上がる。

 従来「勝負手」「逆転の一手」とされていた指し手は、現代ではほとんどの場合ソフトが想定済み。現代のプロ将棋では好手ではなく、悪手こそがハイライトとなる。失ったリードの大きさを全身を使って表現した藤井の姿にこそ、現代の将棋観戦の醍醐味が凝縮されていた。 (記者コラム)

続きを表示

2017年12月28日のニュース