名作「プレイボール」の“その後”を探すコージィ城倉氏のゲーム

[ 2017年5月22日 11:30 ]

都内の仕事場で「プレイボール2」を執筆するコージィ城倉氏
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 早世した漫画家ちばあきお氏が1970年代に描いた名作野球漫画「プレイボール」が、作者を代えて39年ぶりに連載を再開。現在、グランドジャンプ(集英社)で4話を掲載し、漫画ファンを楽しませている。“継投”して続編を描くのはコージィ城倉氏。野球漫画「グラゼニ」(森高夕次名義で原作を担当)などで知られる人気作家だ。

 7日付スポニチ本紙で、コージィ氏のインタビューを掲載した。

 ちば氏といえば同じ野球漫画の「キャプテン」が有名で、「プレイボール」も同じ世界で展開される物語。「キャプテン」で墨谷二中を率いた谷口タカオが「プレイボール」では墨谷高に進学している。

 城倉氏は、よくあるスピンオフものでなく、ちば氏の描いた「プレイボール」の最終回の続きに真正面から取り組んでいる。勇気ある挑戦だ。ちば氏は故人で、今となっては物語の続きをどう考えていたか知るすべはないのだから。城倉氏も「読者から“こんなのニセモノだ”という突っ込みが一番入りやすい形」と苦笑いした。

 今は単純に谷口や後輩の丸井、イガラシらが再び動き出したことが楽しい。余談だが、城倉氏とは丸井の話で盛り上がった。丸井は思い込みが強くて周囲を振り回し、失敗も多い。正直、少年時代の記者には感情移入できない…いや苦手なキャラだった。

 誰もが丸井のような人に会っているはずだ。あれこれ口うるさく、卒業後も部に顔を出して指導して下さる“ありがたい”先輩。部を思えばこその気遣いは、時に空回りする。ちば氏は、丸井に屈辱的な敗北や墨谷高の受験失敗など多くの“試練”を与えている。失敗し落ち込む姿を見せられるのは哀れであり、面倒でもある。

 城倉氏は「ちば先生は丸井が大好きなんでしょう。受験失敗も愛ゆえの仕打ちでは?」と指摘した。自身は大の丸井好きという。

 記者も年を重ね、丸井を違う目で見られるようになった。自分も同じような失敗をしていると思うときもある。名作は、読むたびに発見がある。実は誰より面倒見が良い丸井を、城倉氏がどう描くかも興味深い。

 名作の復活は反対の声も予想されたが、その声は想像より少なかった印象だ。記者個人は“違う作者での再開”は面白い試みだと思う。

 「プレイボール」はやや唐突に終わった感があり、最終回の意味をあれこれ想像してきた。谷口は“最後の夏”に甲子園に行けたのか?最終回の後に思いをはせるのも漫画の楽しみだ。だからこそ、続きを描いて楽しみを奪うべきでないとの意見も理解できる。

 だが、ちば氏が亡くなり、33年もの時間が過ぎたからだろうか。記者は「解釈の1つ」として楽しめば良いと考えている。

 城倉氏は物語を引き継いで描く気分を「今はゲームを楽しんでいるような気分」と笑顔で話した。「ゲーム」という表現を不謹慎に感じる人もいるかもしれないが、もちろん作品を軽んじてなどいない。むしろ「再開が世間にこれほど注目されると思わなかった。この作品は“僕だけの恋人”じゃなかったんだと驚いた」と語るほどの超ファンだ。

 “その後の物語”にはファンそれぞれの答えがある。全ての人を納得させる“正解”はない困難な仕事だ。だが「ゲーム」という表現に、ちば氏の完成させた世界とキャラクターを動かし、答えを探すこと自体を楽しむファンの目線を感じた。

 続編は、城倉氏らしい論理的な分析など独自色も出始めた。「ちば先生のオリジナルと離れていってしまうだろうとは思う。それでも良い意味で読者が“ちば先生のものだ”とだまされてくれたらうれしい」と城倉氏は話している。

 ちば氏と城倉氏の世界が溶け合い「解釈の1つ」で済まない漫画になることを期待している。

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