陣内孝則 9年ぶりのメガフォンに意欲再燃「声だけは鬼監督」

[ 2016年11月19日 15:56 ]

9年ぶりの監督作品を発表した陣内孝則

 俳優の陣内孝則(58)が、コメディ映画「幸福のアリバイ~Picture~」(11月18日公開)を監督。陣内からのラブコールを快諾する形で、中井貴一、柳葉敏郎、大地康雄、木村多江らが顔を揃えた。俳優歴34年の陣内は、多方面で多忙な日々。長編映画監督としては約9年ぶりとなったが「これまでの役者経験を総動員して無駄なく撮った映画」と自信をのぞかせる。

 自伝的映画「ロッカーズ」(2003年)で映画監督デビューしたのが45歳。その後ホッケーを題材にした「スマイル~聖夜の奇跡~」(07)を監督。そこで“陣内監督”としては一区切りつけるはずだった。「映画監督として2本も作った段階で、やりたい事はやったと燃え尽きたところがあった。才能のある監督は世の中にごまんといるし、自分は職業監督ではないから」。しかし、映画「桐島、部活やめるってよ」(12)で知られる脚本家・喜安浩平氏と出会ったことで、創作意欲が再燃。監督作3本目となる今回の脚本を依頼した。

 5つのエピソードはそれぞれ30分と短いが、キャストも違えば演出スタイルもロケ場所も違う。1本の長編映画に比べ、準備に5倍の労力がかかる。しかし9年ぶりの監督業とは思えないほど、撮影はほとんどがスムーズに進み、“巻き”(短い時間)で終わったという。「監督業というのは、これまでやってきた俳優業の延長にあるもの。俳優であるぶん、出演者の気持ちもわかるし、現場のリズムも知っている。ダラダラと時間をかけて撮ればいいものが生まれるわけでもないし、時は金なりであることも知っている」と俳優としての経験とカンが大いに役立った。

 映画本編の演出もさることながら、撮影現場で自らに対する演出を施したのも俳優経験があってこそ。真夏の撮影にもかかわらず、服装はスーツにネクタイを貫いた。「監督が薄汚れたスタジャンにGパンじゃ、安い映画に見えてしまう。ピシッとしていた方がカッコいいし、俳優もそんな美意識の高い監督に身を預けたいと思う。自分も役者をやっている時はそういう気持ちがある。映画は監督のものだし、監督が先頭に立つべきだから、監督として自分も俳優たちと一緒に汗だくにならねばいけない」とスタンスを明かす。

 本番の掛け声にもこだわりがある。「自分を育ててくれたのは、不良ばかりのヤクザ映画の現場。そこでは監督が喧嘩腰で指示を出してくる。でもその声から現場の緊張感が生まれたし、監督の覚悟や気合が全員に伝わる。それにならって自分も日本で一番声のデカい監督を目指しました。声だけは鬼監督」と笑う。

 監督として心を砕いたのは、いかに観客を飽きさせないようにするか。それが表れているのが、第1話「葬式」。ワケありの弔問客と葬儀屋とのやり取りをワンシーン・ワンカットで見せながら、人物をレールで移動させる前衛的な表現で遊び心も取り入れた。「脚本に書かれたそのままを画にするのでは能がない。いかに脚本と勝負するかが重要。ほかのエピソードにしても脚本にはないPV映像やダンスシーンを入れたり、ワクワク感や遊びの感覚を大切にした」と長編監督作3本目にしてスタイルは確立済みだ。

 「俳優として30年以上やらせてもらっているけれど、監督としてはまだまだ新人。その新鮮さが俳優業以上にワクワクさせて、エキサイティングな自分にしてくれる」。還暦を目前にして、俳優とはまた違う壮大なアソビの醍醐味を味わった。“俳優”・陣内孝則の前に“監督”という肩書が出る日が来るかもしれない。(石井隼人)

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2016年11月19日のニュース