山本陽子 芸能生活53年目 美の秘けつは「いつも怒ってるんです」
日本を代表する美人女優の一人と言えば、山本陽子(74)だろう。主演のドラマや舞台は枚挙にいとまがない。清楚(せいそ)なヒロインから悪女までどんな役を演じてもとにかく美しい。でも、性格は「男っぽいとよく言われます」。華やかさの陰には人知れぬ苦労もあったようだ。
忘れられないドラマばかりだ。あえて挙げれば、「白い滑走路」(TBS)「花の生涯」(日本テレビ)「となりの芝生」(NHK)か。いずれも70年代、テレビ全盛の人気作。サスペンス、時代劇、ホームドラマとジャンルは問わず、いずれも魅力的なヒロインばかり。
「難しかったのは普通の主婦でしたね。悪役だったら目線とか体の動きで表現できますが、家庭の奥さんだとそうはいきません。逆にどういう顔をしていればいいのか悩みましたね。自分でつくり上げていける役の方がやりやすい。だから、私には悪い女の方が向いているのかもしれません」
気品が漂う笑顔。押しも押されもしない大女優の一人。しかし、スターの道を歩んできたからこその苦悩もあった。それは、長年、主演を張り続けた者だけに与えられた試練なのだろう。ちょうど20年前、NHKのドラマ「月の船」でのこと。平幹二朗と主人公の両親役だった。脇役に回るのはデビュー当初以来。カメラの位置もアングルも照明までもいつもと違った。自分のポジションが分からなくなった。
「ある時、“私もう耐えられない。いつだって背中しか映ってないみたいじゃない”って、平さんに相談したことがありました。そしたら、“陽子ちゃん、僕も10年前に同じことを味わったんだよ。本当の役者の仕事はこれからだから”と言われました」
このひと言で目の前の霧が晴れた。もともと性格は好きか嫌いか、白か黒か。何事もはっきりしないと気が済まない。「よし!負けないから」。もう一つの女優魂にスイッチが入った。
最も尊敬する人は、小説家、着物デザイナーとしても知られる宇野千代さん。30歳を少し過ぎた頃に出会った。その著書「生きて行く私」などに示された愛に生き、深く己を見つめるという新たな女性像がいつのまにか自身の生き方につながったようだ。
「一緒に旅行もしましたし、いろいろとお話も伺いました。何があってもくよくよしないで常に前を向いて歩く、そういうところが素敵でした。なんと言っても気が合うんですよ。先生も私もダメなものはダメでしたからね」
証券会社のOLから芸能界へ入ったのは、有名な話。日活のニューフェイスに知人が応募書類を出したところ、見事に合格。21歳の時だった。青春映画真っ盛り。周囲は自分より若い女優ばかり、一人だけ20代。1年間の大部屋生活で仕事がない日々が続いた。
「年下の子がどんどん役が決まって映画に出てましたからね。私は日活のカラーに合わないんじゃないかと悩んだこともありました。それまで9時5時の会社勤め生活が180度変わって、それにもついていけなくて、何度も“きょうで辞めよう”と思ってました」
スクリーンからテレビへ、庶民の娯楽が少しずつ変わり始めた時代。映画スターはドラマ出演になかなか首を縦に振らなかった。その流れもこの人を後押しした。一つ、二つとオファーが舞い込み、気がついた時には高視聴率女優。ブラウン管に欠かせない存在になっていた。そうなると主役として共演者とのコミュニケーションも必要。そのために覚えた酒で逆に失敗したこともあった。
「一番飲んだ時は日本酒を1人で1升。二日酔いで撮影現場に行って着物の帯を締めたら気持ち悪くなったこともありました。でも、いくら前の晩、みんなで飲んでも遅刻だけは絶対になかったですね。スタッフの皆さんにはご迷惑ばかりかけました。今はそんなことはありませんよ」
芸能生活は今年で53年目を迎えた。その美貌はあせることがない。いつまでも「坊っちゃん」(日本テレビ)のマドンナのまま。若さの秘けつは、ストレスをためない生活、いや本人の言葉を借りれば「ストレスを感じない人」なのだという。
「私、いつも怒ってるんですよ。人にものを頼んだのにやってないとすぐに何やってんのって。要は自分の言いたいことを全部言ってますからね。はたから見ればただのわがままなのかもしれませんけど」
今後の目標は、80歳になった自分の姿を一人でも多くのファンに見てもらうこと。「年を取ることは少しも怖くありませんよ。これが私の人生ですから」。小気味いいセリフのような言葉に「付き馬屋おえん」を思い出した。
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