「あさが来た」義父役・近藤正臣“びっくりぽん”のアドリブ術

[ 2015年12月6日 11:00 ]

和装姿でポーズを決める近藤正臣

近藤正臣インタビュー(上)

 俳優・近藤正臣(73)がNHK連続テレビ小説「あさが来た」(月~土曜、前8・00)で、年輪を重ねた味のある演技を見せている。女優・波瑠(24)が演じる主人公の義父役。重厚さと軽妙さのバランスが秀逸で、脚本にはないアドリブを時に見せるのも魅力だ。高視聴率を続ける今回の朝ドラを脇でしっかり支える名優に話を聞いた。

 強く「役者」を感じさせる。新聞のインタビューなのに、まるで全国のテレビ視聴者を相手にしているかのように、身ぶり手ぶりを交えて熱く語る。生来のエンターテイナー、サービス精神あふれる人という印象だ。

 口にする言葉の一つ一つも興味深い。「あさが来た」の人気の理由を尋ねると、こんな答えが返ってきた。

 「まずテンポがいいですね。子供の時に見ていた紙芝居“黄金バット”を思い出します。黄金バットが悪者に追い詰められて崖のぎりぎりの所で落ちそうになると“さて、黄金バットの運命やいかに。続きはまたあした”と切る。それで“またあした見たい”と思わせるんですよ」

 視聴者の心を引きつける今回の朝ドラの脚本と演出の巧みさを的確に表現してみせた。

 ヒロイン・波瑠への視線にも独特の感性がある。

 「昔、女性をきれいに描く竹久夢二さんという画家がいました。波瑠さんが座ってセリフを言っているところを遠くから見ていると“これは夢二のモデルになるぞ”と思うんです。それに波瑠さんはうまい。私があの年齢だった頃はもっと下手くそでした。波瑠さんはまだ24歳なのに、やんちゃな娘から、山の女たちに交じって凜(りん)としている女性までしっかり演じている。“凄いな。本当に女優さんというのは怖いもんだ”と思います」

 ドラマの充実に一役買っているのが、近藤のアドリブだ。両替商の大旦那を演じているが、両替商ならば出歩く時に「控え帳」(メモ帳)を携帯しているはずだとの考えから、スタッフに頼んで衣装に控え帳をぶら下げるようにした。演技中、脚本にない動きを入れることも少なくない。

 「現場に行ってセリフをしゃべるのは役者の仕事のごく一部です。そこに何を持っていけるかが“この役はおまえじゃなくちゃいかん”ということにつながるんです。そのために脚本をしっかり読む。しっかり読んで考える。本に何も書かれていなくても“これはこういうことだろう”と想像する。でも、その何かは、ほんの一筆です。大仰な景色を描くわけじゃありません」

 その言葉に役者としての強い矜持(きょうじ)がにじむ。

 ◆近藤 正臣(こんどう・まさおみ)本名・川口正臣。1942年(昭17)2月15日、京都市生まれの73歳。66年公開の映画「“エロ事師たち”より 人類学入門」(今村昌平監督)でデビュー。以後、映画では「超高層ホテル殺人事件」(76年)、「夏服のイブ」(84年)、「妖怪大戦争」(05年)、「TAJOMARU」(09年)などに出演。来年1月3日に放送されるNHK時代劇「吉原裏同心~新春吉原の大火」(後7・30)では吉原を仕切る重要な人物を演じている。

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