【内田雅也の追球】「高め真っすぐ」と不易流行

[ 2023年11月14日 08:00 ]

ブルペンで高めの球を受ける阪神・藤田(撮影・大森 寛明)
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 ブルペンの捕手たちは皆、真ん中高めにミットを構えていた。1年ぶりに訪れた高知・安芸市営球場での阪神秋季キャンプ。監督・岡田彰布は監督復帰直後だった昨秋同様、投手陣に「高め真っすぐ」を投げ込むように指示を出していた。

 昨年は「自分のストレートの威力をもう1段階上げる、その感覚をつかめ」と話していた。今年も同じだ。「魅力あるストレートを投げられるようにすること。そんなストレートがあってこそ、変化球も生きてくる」

 今月1日に始まった秋季キャンプで、投手陣は岡田が来るまで外角低めも変化球も投げていた。ただ岡田が安芸入りした11日からは3日間は「高め真っすぐ」一本だ。

 この日は第3クール最終日。岡田は投球練習中、ずっとブルペンにいた。若い12人全員を見届けた。直球のノビやキレを確認していた。

 高卒新人で今季1軍デビューを果たした左腕・門別啓人や、茨木秀俊も「良かった」とほめ、2年目の右腕・森木大智にも「一昨日(11日)見た時は“え?”と思ったけど、いい時と悪い時があるんやな」と評価した。

 昨秋のキャンプで同様に直球を評価した村上頌樹や桐敷拓馬が今季、大活躍したことを思えば、今の岡田の目にとまるということは大いなる可能性を意味する。「いや、ウチの投手は皆、水準以上よ」と他の投手たちへの期待も口にした。

 この原点と言える「高め真っすぐ」指令に「不易流行」の思いを抱く。いつまでも変化しない本質的なものを忘れない一方、新しい変化をとりいれることを意味する。

 岡田は日本一となったことで、令和の時代に昭和の野球が通用することを示した。「本質は変わらない」というわけだ。

 大リーグでは打者のフライボール革命の対抗策として投手は「高めフォーシーム」で攻める。そんな流行にも応じているかのようだ。

 前回監督時の「7回が重要」と藤川球児を起用したJFKは米野球専門シンクタンク「ベースボール・プロスペクタス」が提唱していた起用法だった。日本シリーズで山本由伸を攻略した「前で打て」はプロウト・お股ニキの言う「動く球は前で打て」と同じだ。

 大リーグの理論やデータ野球に興味を示さない岡田だが、直感的、本質的に急所を突く。だから不易流行でいられるのだろう。 =敬称略= (編集委員) 

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