【大垣日大・阪口監督 語る(2)】「精一杯生きる者に明日はない」「無我夢中の毎日だった」

[ 2023年10月2日 12:19 ]

勇退会見に臨んだ大垣日大・阪口慶三監督(撮影・河合 洋介)
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 高校野球の甲子園で春夏通算35度出場、歴代7位タイの通算40勝を挙げた大垣日大(岐阜)の阪口慶三監督(79)が2日、大垣市内の同校で勇退会見を開いた。健康を理由に、秋の岐阜大会敗退後の9月19日に学校側に辞意を申し入れ、了承された。「これ以上、指導者としての責任を持ってやることは不可能だと思った」などと説明した。

 【阪口監督、語る(2)】

 ――勇退後は何を。
 「阪口慶三から野球を取ったら何も残らない。熱い気持ち、熱いものを何かにぶつけてみたい。それがまた野球になるかも分からない。どこかでやってみようかと、そういう気持ちになるかもしれない」

 ――監督として一番の思い出は。
 「やはり甲子園の優勝でしょう」

 ――思い残すことはないか。
 「甲子園の夏の優勝(をできなかった)。これは悔いが残ります」

 ――長い監督生活を振り返って。
 「やっているときは57年間という(長い)感じは頭になかった。長かったか、短かったか。毎日を精いっぱい生きる者にとって明日はない。今日生まれて、今日還る。そういう人生であっただけに、57年をどういっていいか分かりませんが、非常に楽しい57年でした」

 ――岐阜県内の野球技術の向上に貢献した。
 「そう言っていただけるとむちゃくちゃ嬉しい。岐阜県の野球レベルが上がったという最高のお言葉をいただきました。愛知県で38年やってきましたけれども、岐阜県の野球は、少し言葉が悪いようですけれども、指導者の勉強が愛知県よりは少し落ちるのではないか…と、勉強不足を感じました。19年間やってきて、少しは愛知県に追いつけたかな…と思っている」

 ―数多くいる教え子へ。
 「電話が鳴りっぱなしです。寂しいとか、まだやれるとか。先生のおかげで今日があるという言葉をもらいますけれども、私が何千人という教え子もつくりましたけれども、その者たちが社会で立派に活躍していると聞いて、監督冥利、教育者冥利に尽きます」

 ――選手を子どもたちと呼んできた。
 「子どもはかわいい。自分の生徒と監督という思いではなく、自分の子どもとして考えているわけですね。預かった以上は、阪口慶三の子どもである。そういうところから“子ども”と呼んでいます」

 ――妻への思い。
 「女房には今年に入って、再三自分の進退の話をしました。今回は、女房が一番喜ぶ決断をしたと思う。甲子園に35回出ても、甲子園の野球を見に来たのは35回中2回です。岐阜県大会も見に来たことがない。勝負が怖いからと。これで開放されるということで、非常に喜んでいました」

 ――参考にした監督はいるか。
 「一番勉強になったのは、中京大中京(中京商)の杉浦藤文監督。この先生の采配を勉強しました。先生との試合は、勝っても負けてもベンチから出られなかった。それほど精神面をやらてしまう鋭い采配だった。それを今日までの自分の野球に取り入れてやってきたということで杉浦藤文でしょう」

 ――大垣日大で印象に残っている試合は。
 「岐阜県の野球は正直言って、全試合どれも苦しい試合ばかりだった。甲子園では8点差を勝った(14年夏の)藤代(茨城)高校との試合が印象に残っています」

 ――指導者として貫いたことは。
 「誰も阪口監督とは呼ばない。阪口先生と呼ぶ。野球を通じて子どもたちに訴えるのは、やはり子どもらしい子ども、誰からも愛される子どもになるために、常識をしっかりと教える。魂の持った子どもに育てる。野球を通して、人間教育を徹底するということを心がけてやってきました」

 ――なぜ57年間も監督を続けられたのか。
 「勝っても負けても勉強、反省。こういう考えで野球をやってきました。勝ったら勝ったでどこが良かったか、負けたら負けたで何が原因か、繰り返し繰り返し考えるうちに、こんなに長くやることになった。でも、やっているうちは、57年というものが本当に長かったかというと、少しも長く感じない。無我夢中の毎日を送ってきた。それが今、ここで挨拶をさせてもらい、57年は長かったのだな…と今しみじみ感じています」

 ――57年間も監督を続けられると考えていたか。
 「全然思っていなかった。東邦高校で22歳から監督をやらされた。自分から進んで引き受けたわけではない。強引にやらされた。大変なことだった。でも、3年目に甲子園に行った。4年目も行った、5年目も行った。そういう積み重ねで自分の野球に自信を持てるようになった。無我夢中で何事も取り組むべきだと身をもって知らされました」(終わり)

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