【内田雅也の追球】ポストシーズンの季節「ミスター・オクトーバー」になるのは誰か

[ 2023年10月2日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6-5広島 ( 2023年10月1日    マツダ )

<広・神> 3回1死満塁、先制適時打を放ちベンチに向かって手を挙げる佐藤輝(撮影・大森 寛明)
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 試合後、マツダスタジアムの外に出ると、ひんやりとした風が吹き抜けていた。10月である。ポストシーズンゲームの季節だ。この時期に活躍する選手を「ミスター・オクトーバー」(10月男)と呼ぶ。

 元はレジー・ジャクソンへの称号だった。ヤンキース時代の1977年、ワールドシリーズ。第6戦での3打席連続本塁打など、打率4割5分、5本塁打。MVPに輝き、ヤンキースに15年ぶりの優勝をもたらした。

 「ワールドシリーズが好きじゃない唯一の理由は自分のプレーが見られないことだ」など歯に衣(きぬ)着せぬ発言はよく物議をかもした。自己顕示欲が強く、目立ちたがり屋を意味する俗語「ホットドッグ」と呼ばれた。いわく「あれだけのホットドッグに塗るマスタードは世界中から集めても足りない」。

 ただ、それだけで「10月男」にはなれない。今春3月に公開された実録映画『レジー 伝説の大リーガー』で意外な心情を知った。本人がワールドシリーズでの活躍を「自分を向上させろと神が試練を与えた。謙虚になれた」と語っている。ヤンキース移籍後、奔放な振る舞いでチームで孤立していた時期があった。

 阪神で「10月男」になれるのは誰だろうか。この日の広島戦で適時打に3ランと活躍した佐藤輝明も有力な候補だ。試練を乗りこえてきた。

 6月25日、横浜で2軍降格となった。打撃不振で先発落ちとなった前日24日のDeNA戦。試合前練習でノックも受けず、試合開始当初もベンチにおらず、ロッカーでテレビを見ていた。この態度に監督・岡田彰布が「野球選手じゃない」と断を下した。

 団体競技である。試合には出ずとも仲間を励ます声を出したり、状況を肌で感じたり、やれることはいくらもある。

 レジーが謙虚となり、同僚と打ち解けたように佐藤輝も何かを感じて1軍に戻り、そして打撃も上昇していた。9月は打率3割4分4厘、7本塁打と打ちまくった。

 「10月男」の元祖、レジーは映画で「人は『最初は誰だったか』に興味を持つ。でも、私が気になるのは『次は誰か』だ」と語っている。

 「次」は誰だ。衣替えの日、メガネもかけ替えて、選手たちを見直したい。佐藤輝以外にも「10月男」の候補者はいくらもいる。 =敬称略=(編集委員)

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