22歳野球女子の米独立L挑戦物語 男子の世界に1人、寝食もハードな60日「自分のレベルが上がった」

[ 2022年10月26日 11:30 ]

米国の独立リーグでプレーをする桑本輝良。入国の際に2時間の尋問を受けて立ち往生したのは今でも笑い話
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 バット1本で米国に渡った女子選手は、いるのだろうか。それも、男子の世界に混じってプレーしたとなれば、なおさら、かなりの激レアさんではないだろうか。

 桑本輝良(きら)外野手、22歳。外野手。右投げ右打ち。

 今年6月から2カ月間、米国ニューヨーク州の独立リーグ「エンパイア・リーグ」の「ジャパン・アイランダーズ」の一員として戦った。日本人主体のチームにおいても、全4チームで構成されたリーグを見渡しても、女性は1人だけ。140キロ台の直球や、鋭い変化球に心が折れそうになりながら、持ち味のフルスイングを重ねた。

 26試合で62打数4安打。打率・065の成績は、ある程度、覚悟していたこと。数字よりも「レベルが高い男性の中でプレーができた。自分のレベルが上がった実感はある」と、挑戦そのものが財産になった。

 オファーは突然届いた。社会人になり、クラブチームの「履正社レクトビーナス」でクリーンアップを打っていたところ、米国の独立リーグ選手から誘いを受けた。

 連絡の主は、板倉寛樹(32)。日本の独立リーグを経て米国の独立リーグで白球を追う外野手であり、「ジャパン・アイランダーズ」のオーナーだった。「新しい風を吹かせてほしい」。想像もしなかった世界から必要とされ、胸が躍ると当時に戸惑った。

 「会社には入社1年目で…。クラブチームのこともあるし。実力もついていけるか、不安だった」

 前例がないに等しい道は、先行きが見通せない反面、自分次第で未来を何色にでも変えられるとも感じた。枚方なぎさ高(大阪)2年でマネジャーから選手に転向した時から、男子に混じって、打って、投げて、走って、何事もやってみなければ分からないことを、身をもって体験してきた。持ち前の積極性が、不安を吹き飛ばした。

 「こんな機会はない。行くしかない」

 ニューヨーク州を拠点とする「エンパイア・リーグ」は、「ショーケース・リーグ」と呼ばれる。1試合の観客は、多くて200~300人ほどだという。ここで活躍すれば、レベルが高い他の独立リーグから誘われる。そこで活躍すれば、もしかしたらMLBの傘下のマイナーリーグから声がかかるかもしれない。「エンパイア」は米国内に多数存在する独立リーグの中でも、明日を夢見る無名選手が集う場所だ。

 野武士揃いのリーグで待っていた生活は、驚きの連続。リーグ側が用意した宿舎は、教会の地下室。陽が当たらなければ、窓もなかった。男性との共同生活。立ち入り禁止区域を設けてプライベートを確保しながら、連戦に次ぐ連戦の野球漬けの日々を送った。

 報酬はない。貯金を食い潰す生活。歴史的な円安は、懐に響いた。大半の選手の主食は、冷凍食品。宿舎唯一の家電、電子レンジには毎日、長蛇の列ができた。最初は調理器具があった。みんな裕福ではないから、国籍もチームの垣根も取っ払い、協力して自炊を試みた。しかし…。

 「窓がないから、煙で火災報知機が鳴ってしまって。向こうって、消防団が1度出動すると、リーグ側に、日本円で7万円ほどの請求書が行くみたいで。グリルは撤去された」

 もともと海外生活に憧れていた。日米の文化の違いも受け入れられた。「日本人はみんなで足並みを揃えようとするけど、向こうは、自分がいかにヒーローになれるかを考える。日本人のように建前で話さないし、思ったことを素直に伝えるのが普通。そういう空気に触れて、自分の思ったとおりにやっていいんだって、気付いた」。不自由な生活も笑い飛ばせるたくましさを身につけて、8月に日本に帰ってきた。

 現在は、野球塾の「BT野球スクール大阪校」でアドバイザーとして働く。小学生の指導は、明るく、きめ細かだと評判だ。

 日本は、女子プロ野球が21年に完全に消滅し、高校卒業後はクラブチームで競技を続けるしか方法がない。その道も考えたが、海外の未知の世界の方が刺激的に感じた。この秋に再び、エンパイア・リーグに挑戦する。その先に、オーストラリアでのプレーを夢見る。海外志向が強いからといって、なにも、女子選手のパイオニアになるつもりはない。ただ野球が好きだから、バットを振り続けている。(倉世古 洋平)

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2022年10月26日のニュース