明秀学園日立の三塁手に流れる「本塁打アーティスト」の血

[ 2022年1月31日 14:26 ]

明秀学園日立の小久保快栄
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 【君島圭介のスポーツと人間】1月28日、JR日立駅で電車を降りてすぐ足もとまで迫る太平洋の迫力に圧倒された。ガラス張りの駅舎から遠い水平線をしばらくの間、眺めてから秋の関東王者、明秀学園日立のグラウンドに向かった。

 選抜出場決定の報を受けてひとしきり恒例の写真撮影などを行った後、小久保快栄内野手(2年)は「目標だった甲子園出場が決まってほっとした」と笑みを浮かべた。父・隆也氏は名門・智弁和歌山で甲子園出場。伯父の裕紀氏はソフトバンク、巨人で通算413本塁打を放った大砲。血統はサラブレッドだが、真っ直ぐ見据えた目におごりはない。

 全国の強者が集まった茨城・日立の地では「小久保」の名前で特別扱いはされない。新チームになってから公式戦の打率4割、3本塁打は本人の努力の結果であり、秋季関東大会の優勝はチームで勝ち取った栄誉だ。

 それでも現ソフトバンク2軍監督を務める裕紀氏の現役時代を知る身として、1メートル88の高校生に伯父を超える何かを感じざるを得なかった。

 裕紀氏は大砲として決して大柄ではなかったが、放物線の美しい本塁打を放った。同じ「アーティスト」である田淵幸一氏は「俺もそうだけど、小久保もバットにボールが当たる瞬間、ちょっと逆スピンをかけるんだよ。だから打球が上がるんだ」と話していた。天才の感覚は常人には理解できない。

 裕紀氏はパワー時代の到来を察し、専属トレーナーをつけて体を大きくし始めた。小久保の持つ伯父の思い出も「お正月に会ったとき、胸板がすごく厚い。一流の人は違う」と驚いたというものだ。裕紀氏の才能とそれを超える、中2で1メートル80に達していた体格。そして、オスグッドなどいわゆる成長痛に悩まされた経験もないという体の強さは、まさに天の恵みだろう。

 それを生かすのは本人の努力と恵まれた環境。猪俣駿太(2年)、石川ケニー(2年)ら超高校級と寮生活をともにし、切磋琢磨(せっさたくま)できるのも幸運だ。

 ひとつだけ、特別なエピソードを教えてくれた。「小学5年生のとき(裕紀氏から)バットをプレゼントしてもらったんです。うれしくて、ずっとそのバットばかり振っていました」。取材を終えて帰るとき、太平洋の水平線はもう暗闇に消えていた。それでも来たときより、ずっとすがすがしい気持ちになっていた。(専門委員)

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2022年1月31日のニュース