侍ジャパン・栗山監督 栗の樹ファームから世界一へ「大善は非情に似たり」「翔平の存在は理解」

[ 2022年1月6日 05:30 ]

銀世界の栗の樹ファームでポーズをとる栗山氏(撮影・高橋茂夫)
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 侍ジャパンの栗山英樹監督(60)がスポニチ本紙の新春インタビューに応じ、世界一への強い決意を語った。来年3月開催予定のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向け、重要な準備期間となる22年。世界で勝ち切るチーム結成へ、すでに選手選考に入っているとした。北海道栗山町に造った「栗の樹ファーム」から始まった「フィールド・オブ・ドリームス」が世界の舞台へつながっていく。(聞き手・秋村 誠人)

 ――23年WBCへ向け重要な年を迎えた。
 「この1年をかけてしっかり準備をしていく。自分の中では今年は(来年)3月まであると思っている。来年3月の大会までが自分にとっては全ての時間。誰かのため、野球のために“やるべきことをできるんですか”と問われてると思うので最後までやり切る」

 ――20年前に「栗の樹ファーム」で始まった「フィールド・オブ・ドリームス」が世界の舞台までつながった。白銀の地で思うことは。
 「そう聞かれると、凄く不思議な感じ。この球場を造っていなければ今の自分はいなかったし(侍ジャパン監督は)想像もしてなかった。自分が一番“何で?”って思っているし、現実感がない。ただ、今はやるべきことを必死に一日一日やっている」

 ――映画のように球場を造ると日本ハム監督の話が来て、ユニホームを着た自分が現れたと言っていた。今度現れたのは。
 「今度は本当に野球の神様が現れた。(日本ハム監督時代、最後の)3年間は(3年連続5位で)凄く悔しい思いをした。野球に感謝して辞めようとしたとき、もう一回勝負させてもらえる。そして“ちゃんと野球界に恩返ししろ。本当に感謝しているなら日本野球のために全てを懸けて恩返ししろ”と言われてると思う」

 ――新年に「小善は大悪に似たり 大善は非情に似たり」の言葉を掲げた。
 「出会いは稲盛さん(京セラ名誉会長)の言葉だったと思う。2年前に京セラの本社まで行って、稲盛さんには直接お会いできなくても京セラの皆さんから話を聞いた。組織が大きくなる過程を聞かせていただいて“なるほどな”と。自分にとって大事な言葉。今だけ選手に心地いい言葉より、本当に選手のためになるのは非情にも見える。そういう厳しい判断をしないといけない。選手が苦しければ苦しいほど、非情に見えるものほど、愛情を持ってやれば選手のためになると思う」

 ――侍ジャパン監督として時には非情に。
 「選手選考だったり采配だったり、あるときはチームのために非情になってやらなければいけない。結果的にチームが勝てば、それが選手のためになる。変なものに自分が揺さぶられないように。もちろん選手は大切だし、敬意を持つ。その上で肝に銘じていきたい」

 ――最強チーム結成へ選手選考を進める。
 「最強でも、最良でも、最上でも何でもいい。勝つチーム、勝てるチームをつくらないといけない。能力の高い選手を集めたドリームチームというイメージではない。(チームづくりの)準備期間が少なく、一発勝負で勝てるチーム。野球の本場で米国を倒して世界一になるという選手の魂は信じてるから、大事なのはどういう特徴を持っているか」

 ――選手選考は先入観を持たずに進める。
 「そう。可能性のある選手全て、アマチュア選手も含め、女子選手にだってチャンスがあると思って、真っ平らにして見ていかないと。まず先入観を捨てるのが大事。それが選手たちへの敬意だと思う」

 ――エンゼルス・大谷は23年WBCに“(選ばれるような)立場にいなければいけない”と言っていた。
 「誰よりも翔平の天井の高さは知っているつもりだし、本当に世界一の選手になると思って(メジャーへ)送り出した。世界一の選手になると思っているのも事実。だけど、本当に翔平が言っている通り、今の段階で誰を選ぶとか言うところではない。ただ、翔平について聞かれれば、みんなの思いとか、彼の存在は理解している」

 ――大谷には使命があると言っていた。自身の使命は。
 「大先輩方が野球界をつくってくださり、我々は野球に夢を見ることができて、今も野球をやらせてもらっている。夢を見られる野球という世界を次の世代に渡していく責任があると思う。そのために命を懸け、命を使いなさいと言われていると信じてやっていく」

 ――3月の台湾代表との強化試合が初陣。
 「3月の試合はみんな東京五輪の疲れもあるし、昨年のシーズンも長かった。一回真っ平らにする作業をするつもりだし(選考過程で)若い人が出てこないといけない。4番は若い人に打ってほしい。もちろん村上(ヤクルト)や投手も栗林(広島)、伊藤(日本ハム)らは楽しみ。ただ、選考はもう始まっている。強化試合ではなく選考試合。そしてシーズンを通じて(侍ジャパンで)自分を使わざるを得ない結果を出し、ポジションをつかんでほしい」

 ※栗の樹ファーム 名前が同じ縁で交流が始まった北海道栗山町に、町民の協力を得て02年に野球場を造った。当時、栗山監督の背中を押したのが映画「フィールド・オブ・ドリームス」。ケビン・コスナーが演じる主人公レイが「それを造れば彼が来る」という声を聞き、米アイオワ州のトウモロコシ畑の中に野球場を造ると、往年の名選手たちが現れ、最後に仲たがいしたまま他界した父と再会するストーリー。99年には映画の舞台となった球場を訪れて感激。私財を投じて映画同様、天然芝のグラウンドを造り、ログハウスに自身が収集した野球のお宝グッズを展示した。

 ※小善は大悪に似たり 大善は非情に似たり 仏教の教えにある言葉で、企業の経営者が多く使う。京セラ・稲盛和夫名誉会長はこの言葉を用いて、会社の人間関係の基本について「信念もなく部下に迎合する上司は、一見愛情深く見えて結果として部下をダメにする。これを小善と言います。逆に信念を持って厳しく指導する上司は煙たいかもしれないが、長い目で見れば部下を成長させる。これが大善です」と説いている。

 ◇栗山 英樹(くりやま・ひでき)1961年(昭36)4月26日生まれ、東京都出身の60歳。創価高から東京学芸大を経て、83年ドラフト外で内野手としてヤクルト入団。2年目に外野手に転向し、89年にゴールデングラブ賞獲得。90年に現役引退。通算成績は494試合で打率・279、7本塁打、67打点、23盗塁。スポーツキャスター、大学講師などを務め、12年に日本ハム監督に就任。同年にリーグ優勝、16年に日本一を達成した。監督成績は1410試合で684勝672敗54分け、勝率・504。

 【取材後記】栗山監督は背番号89を背負う。「野球の原点に立ち返る」という思いからの「89(やきゅう)」であり、06年の第1回WBCで日本を世界一へ導いた王貞治監督(現ソフトバンク球団会長兼特別チームアドバイザー)がつけていた番号だ。

 「子供の頃から憧れ続けた王さんがつけられて世界一への道を切り開いた」。その番号を「自分がつけていいのか」と思い、報告すると王氏は「分かりました」と快く了承してくれたという。

 日本ハムでつけたのは「80」。尊敬する名将・三原脩氏がヤクルトの監督時代に背負った番号だった。「三原マジック」と称された先入観を持たない野球を推進。「89」を背負う栗山監督が、世界を舞台にどんな野球を見せるのか楽しみだ。(遊軍・秋村 誠人)

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