東海大菅生が泣いた降雨コールドゲーム 元NPB審判員記者が覚えた違和感

[ 2021年9月2日 09:00 ]

コールドで勝敗が決した「大阪桐蔭・東海大菅生」戦。山口球審(右)から告げられ、お互いに礼をかわす東海大菅生・栄主将(左)と大阪桐蔭・池田主将
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 8月29日に閉会した第103回全国高校野球選手権大会は降雨の影響を大きく受けた大会となった。特筆すべきは1回戦の東海大菅生―大阪桐蔭戦。8回途中で降雨コールドとなり、大阪桐蔭が7―4で勝利。コールドで勝敗が決したのは93年大会以来だった。

 中断が決まった8回は打者が滑ってバットを飛ばし、内野ゴロのボールが水しぶきを上げて転がった。メディアでは「審判員の中断判断が遅かったのではないか」などの声も上がったが、2011年から16年までNPB審判員を務めた記者は違和感を覚えた。

 NPB審判員にも「先生」がいる。「技術委員」という役職があり、若手審判員に「イロハ」を教えてくれる存在だ。プロ野球で通算2514試合に出場した名審判・林忠良さんが私の先生で、1年目に質問した。「審判で一番難しいことは何でしょう」。返答は「雨や」だった。

 審判員3年目の2軍戦。雨のマツダスタジアムで球審を務めた私は試合の可否判断を下す責任審判だった。試合前から雨が降っていた広島―ソフトバンク戦。「中断する決め手がない」と判断して続行したが、選手が泥に足を取られたところでやっと中断を決意。その後も回復せずノーゲームとなった。悪条件の中でプレーするも、試合成立の5回に届かず、選手からは「もっと早く止めとけよ」「怪我するだろ」と不満の声。悪天候の中で試合の可否を判断する難しさを体感した。

 実体験があるからこそ思う。東海大菅生戦を担当した審判団は例年の状況ならば、あそこまで試合を続行しただろうか。記者は違うと思う。4日も雨天順延となり、日程消化が危ぶまれた異例の状況。通常でも難しい試合の可否判断に「試合日程」まで考慮する必要があったのではないか。だからこそ、5回に投手が足を滑らせても、高校野球の試合成立となる7回まで続行せざるを得なかったのではないか。その視点なしに1試合における「判断」として論じられることはフェアではない。

 球児のために大会を開催した主催者には頭が下がる。「人・場所・金」が必要な大会で簡単な話ではないが、「継続試合」の導入を願う。球児が最後までプレーするために、審判団が不相応な重責を背負わないために。(記者コラム・柳内 遼平)

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2021年9月2日のニュース