【内田雅也の追球】「2死後打点」を生む力 2死から7点を奪った阪神の「集中力」

[ 2020年7月27日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神9-3中日 ( 2020年7月26日    ナゴヤD )

<中・神(9)> 8回2死一、二塁、同点適時打を放ちガッツポーズを決める福留(撮影・大森 寛明)
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 阪神が勝負の行方を決める8回までに奪った7点はすべて2死からあげたものだった。

 0―3の5回表は2死からの敵失に乗じ、近本光司が適時打した。後半への希望を見いだした。

 6回表も2死無走者で相手バッテリーが一発警戒のなか、ジャスティン・ボーアが左翼ポール直撃のソロ本塁打を放ち、1点差と迫った。

 逆転劇の8回表は無死一、二塁から大山悠輔併殺打で2死二塁。好機が去ったかに思えた後、福留孝介が回生の同点打、梅野隆太郎が決勝打、さらに打線がつながった。

 大リーグでは「2 OUT RBI」と特記され、勝負強さの目安になる。「2死後打点」とでも訳すべきか。それが7点も記録された。この勝負強さの源は何だろう。

 覚えている方も多いだろう。2013年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。第1ラウンド(東京ドーム)で侍ジャパン(日本代表)は負ければ予選敗退という台湾戦で9回表2死まで1点ビハインドと追い詰められた。鳥谷敬(当時阪神)が四球、二盗。そして井端弘和(当時中日)が2ボール―2ストライクと追い込まれながら中前同点打を放った。究極の2死後打点である。

 その井端が著書、その名も『土壇場力』(竹書房)で重要なことは<集中力>だと書いている。それも<自分の世界へ入る力>だそうだ。雑念を振り払った境地である。

 追い詰められた状況では<「どうしよう」というマイナス思考が出た瞬間、もう負け>だという。<「いやいやそんな弱気じゃダメだ」と気持ちを立て直して「思い切りフルスイングしてやろう」と思っても遅い。そうなると、今度はいつも以上に力が入ってしまうからだ>。なるほど、打席に入る時点での心構えが明暗を分けるわけだ。

 殊勲打を放った、あの時は<「三振したらどうしよう」とも思わなかったし、逆に「打ってやろう」という気持ちさえも起こらなかった>。

 同じく<集中力は成功へのキーワード>と、大リーグ・アスレチックスでカウンセラーも務めた心理学者、ハーベイ・A・ドルフマンが『野球のメンタル・トレーニング』(大修館書店)に記している。そして<「俺が俺が」というエゴ(自我)の働きを抑制しなければならない>。エゴは<手ごわい敵>で、エゴの働きでプレーする選手は<間違いなく注意散漫な状態にある>。

 逆説めくが、矢野燿大が監督に就いた昨年、そして今年とスローガンに「オレがヤル!」を盛り込んだ。

 一昨年11月23日のファン感謝デーでスローガンを発表した際、矢野は「「バッターはチャンスの場面でオレがやってやる、ピッチャーもピンチでオレが抑えてやると思ってもらいたい」と話していた。選手に土壇場での強い心を求めた。

 今の選手たちは、先に書いたようなエゴイスティックな者は少なく、どちらかと言えば、おとなしい気がしていたのだろう。すでに「チームのため」という献身的な姿勢が備わっていると感じていたという事情もあったのではないか。

 「オレがオレが――」には力みや雑念が混じっているが、自分の境地に入った「オレが――」は集中力を生んでいるということだと言えようか。

 監督が早めの代打攻勢から継投、代走、守備固め……と積極的な選手起用でチームを鼓舞した一戦でもあった。1人を残し、野手全員で得た勝利に、勝負強さの源が垣間見えた。=敬称略=(編集委員)

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