【内田雅也の追球】攻守に土が匂った勝利 阪神“泥臭く”苦手攻略

[ 2020年7月18日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4―1中日 ( 2020年7月17日    甲子園 )

<神・中(4)> 3回無死、内野安打を放ち、泥だらけの木浪 (撮影・平嶋 理子)                                                             
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 最後の27個目のアウトが試合を象徴していた。9回表2死一塁、一塁左へのゴロを阪神ジャスティン・ボーアが逆シングル横っ跳びで好捕し、そのまま一塁ベースに頭から突っ込んだ。ユニホームに土がべったりと着く、泥臭いプレーだった。

 そう、阪神は泥臭く勝った。

 2017年から4連敗中、昨年9月にはノーヒットノーランも喫した苦手左腕・大野雄大に土をつけるには、自ら土に突っ込んでいく泥臭さが必要だったのだろう。

 3回表先頭、木浪聖也はバットが折れ、二塁前に転がった当たりで疾走し、一塁に頭から突っ込んだ。試合前や試合中も降った雨のため、グラウンドはぬかるんでいた。文字通り泥まみれになって、内野安打で生きたのだ。

 この後、送りバント、四球の1死一、二塁から糸原健斗の放った三塁線ゴロはファウル地域から通常とは逆回転でフェア地域に入ってきた。三塁内野安打に、三塁手の一塁悪送球がからんで二塁走者・木浪が先制の本塁に還った。

 「もしオレのユニホームが汚れていなかったなら言ってくれ」とリッキー・ヘンダーソンが語っている。「それは、その試合で何もしていなかったという意味だ」

 大リーグ史上最多1406盗塁、2295得点。「史上最高のリードオフマン」と呼ばれた。大きなリードを取り、けん制球には頭から帰った。故障につながる……など、ヘッドスライディングの是非論はあるが、闘志が前に出ていると前向きにとらえたい。外野守備でもダイビング捕球を行った。猪突(ちょとつ)猛進型のプレースタイルでチームを引っ張った。大リーグ9球団でプレーしたが、1980年代のアスレチックス黄金時代が印象深い。

 先制点を記した木浪のユニホームはしっかりと汚れていた。

 7回裏の追加点も2死二塁で糸井嘉男の遊撃左内野安打が絡んでいる。快打でなく泥臭い安打で苦手を攻略したのだ。

 一方、守りも泥臭かった。9回で実に20個のゴロアウト(1併殺含む)を奪い、無失策で通した。先発・青柳晃洋は7回で実に17個のアウトがゴロで奪った。内野陣は好守で応えた。

 内野陣のなかでも、特にボテボテの緩いゴロに対する三塁手・大山悠輔の守備が光る。1回表1死の平田良介、2回表1死一塁での溝脇隼人、7回表2死二塁での京田陽太の三ゴロはいずれも前進、ランニングスローの好守備だった。三塁手として「見せ場」のプレーで、4番として無安打の大山は、守備で勝利に貢献していた。

 「4番サード」だった「ミスタープロ野球」長嶋茂雄は<打、走、守では守備が一番好きだった。楽しかった>と著書『野球へのラブレター』(文春新書)に記している。<ファンに“遊び”というか、プレーヤーとして楽しんでいる部分、こんな風にやれば平凡なプレーでもファンに喜んでもらえるのではと日頃練習してきたことがハマったとき、ファンと一緒に喜べるのが楽しかった>。

 大山のランニングスローは懸命のプレーだろうが、長嶋の“魅せる”プレー同様にファンの喝采を浴びていた。

 同じ三塁前ゴロのランニングスローが悪送球となって拾った先取点とは対照的で、守り勝ちとも言える。

 攻めては内野安打、守りでは内野ゴロの守備、ともに土の香り漂った快勝である。=敬称略=(編集委員)

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2020年7月18日のニュース