声が出ない…世界選手権金メダリスト・伊藤に試練

[ 2013年3月3日 06:00 ]

「本日 声が出ません」「すみません」とガムテープに書いてジャケットに貼り付けた伊藤有希

 金メダリストがアクシデントに見舞われた。第84回宮様国際スキー大会のジャンプラージヒルは、3日に札幌・宮の森ジャンプ競技場で行われる。だが、2日の公式練習は悪天候のために中止に。世界選手権(イタリア)の混合団体優勝メンバーの伊藤有希(18=下川商高)は、陸上でのシミュレーション練習で感触を確認。帰国後に声が出なくなる謎の症状に見舞われた上に、今季初めてのラージヒルにもぶっつけ本番で臨まざるを得なくなった。

 声をのみ、涙を流すだけだった世界選手権での金メダル。だが、この日の伊藤は本当に声が出なくなっていた。

 「本日 声が出ません」

 「すみません」

 2本のガムテープに丁寧に釈明のメッセージを書き、目立つようにジャケットの前面に貼り付けた。「あいさつしても聞こえないので、態度が悪いと思われないように」。いつもはハキハキ話す伊藤が、空気だけが漏れたような小さな声で説明した。

 変調を感じたのは世界選手権から帰国した翌日の2月28日の朝。「ハスキー声が交ざるようになって…」。風邪でもないのに症状は次第に悪化した。下川商高の卒業式だった前日の1日は最もひどかったという。卒業生は名前を呼ばれ「ハイ!」と元気よく返事をするのに、伊藤は声を張り上げても声にならない。「知らない人には“なんだ、こいつ”と思われたかも」と頭をかいた。友達とは「超接近するか、メモ帳を持って筆談していた」とどうにか惜別の言葉は交わせたようだ。

 この日は朝4時にバスで下川町を出て約6時間かけて札幌までたどり着いたものの、吹雪のために公式練習は中止。今季初のラージヒルの予行演習もできなかった。

 踏んだり蹴ったり、声が出なかったりと散々な状況だが、へこたれてはいない。「世界選手権で泣いていたのはうれし涙?って聞かれるけど、うれしい気持ちはこれっぽっちもない。チームに貢献できなかったから」と大舞台での悔しさを忘れてはいないからだ。「あしたになれば声も大丈夫だと思う」とガムテープを貼り付けたまま、帰りの車に乗り込んだ。 

 ◆伊藤 有希(いとう・ゆうき)1994年(平6)5月10日、北海道出身の18歳。父・克彦氏が指導する下川少年団で腕を磨き、07年に12歳でコンチネンタル杯3位に。「スーパー小学生」と注目された。W杯は8位が最高。2月の世界選手権混合団体で金メダル。北海道・下川商高から今春、土屋ホーム入りする。1メートル61、47キロ。

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2013年3月3日のニュース