×

【コラム】海外通信員

リオ五輪金メダルとブラジルサッカー復活の兆し

[ 2016年9月10日 05:30 ]

金メダルをかじるネイマール
Photo By ゲッティ=共同

 リオ五輪が終わった。男子サッカーは聖地マラカナンスタジアムで、W杯ブラジル大会で7-1という屈辱の大敗を喫したドイツ相手にPK戦で勝利。悲願の金メダルを獲得するのにこれ以上ないドラマチックな結末を迎えた。ブラジルサッカーにとって唯一欠けていた金メダルの称号を自国開催で、国民の目の前で手にしたセレソンは、このところの不人気ぶりから脱した。

 五輪セレソンは、本来はA代表の監督であるドゥンガが指揮するはずだった。が、リオ五輪直前のコッパ・アメリカ・センテナーリオでグループリーグ敗退という失態をおかし、就任1年で解任となった。代わって監督になったチッチ監督は、これまでU-23を率いてきたミカーレ監督に五輪を引き続き任せることにしたのだが、これは妥当な判断だった。

 これまで、五輪代表の立場は微妙で、ブラジルサッカー連盟にとってA代表のおまけチームにすぎず、監督はA代表との兼任で、五輪の時だけ指揮を執るというやり方をしてきた。五輪のためのチーム作りを監督スタッフ、選手と一体になってしてないのだ。U-20チームをベースに準備をして、五輪前はU-23、五輪ではOAを混ぜるという方法だった。が、92年から2002年、FIFAランキング1位をリードした時でさえ、金メダルには手が届かなかった。

 リオ五輪のメンバー提出期限の直前に、ミカーレ監督が正式に五輪監督に就任するというドタバタになったが、ミカーレ監督こそが五輪チームを作ってきた人物で、それほど大きな混乱にはならなかった。世論の反対も起こらなかった。それもそのはず、誰もミカーレ監督のことを知らなかったのだから…。あくまでも、ドゥンガにチームを渡すまでの中継ぎ的存在だったミカーレ監督は、突如表舞台に出ることになったわけだが、これは良い結果となった。

 ネイマール以外の選手は五輪初参加。マルキーニョスなど一部を除いて若い選手達は、これまでU-20やU-23でカナリア軍団ではあったが、試合に来てくれる観客の数は微々たるものだった。それが、今回五輪代表ではあるが、全国民の注目を集め、応援されることを初体験としてワクワクする若さがあった。ミカーレ監督はしかめっ面のドゥンガと違って明るく、国民に寄り添う姿勢があった。

 監督の目指すサッカーは、コンパクト、スピード、全員守備、攻撃的サッカーと明言したが、グループリーグの第1戦から攻めまくった。ただ、残念ながらゴールは1、2試合と生まれなかったが、全員が攻める姿勢を忘れないサッカーは見せていた。そして、ついに3試合目のデンマーク戦で爆発した。

 同じ南米の強敵コロンビア戦でも、2点をもぎ取り、ミカーレ監督の目指したサッカーは間違いではなかったことを証明した。ここから、一気に五輪セレソンは国民の支持を得ていくことになる。

 準決勝にコマを進めた若者たちは、ついにセレソンのふるさと、リオに戻ってきた!!!早速選手村に遊びに行き(宿舎は別)、他競技の選手達と交流を深め、リラックスした気持ちで五輪にいることを実感した。彼らにはW杯の時の、プレッシャーや期待とは比べ物にならない明るさと最近のセレソンになかったのびのびした元気さがあった。

 そのポジティブなイメージが功を奏しホンジュラス戦では、6点!たたき出し、ガブリエウ・ジェズスとガブリエウ・バルボーザのガブリエウコンビは、期待通りどん欲にゴールを狙い続けた。ネイマールは、個の力を出しながらも、チームプレーに徹した。
ドイツとの決勝は、簡単に勝てたわけではない。組織的にはドイツの方が上手な時も多かった。PK戦で、間一髪で金メダルを手にしたとはいえ、このミカーレ監督のチームは常に前へ前へ、ゴールを狙っていく積極性と失点を許さない強固な守備をポジション関係なしにどの選手もが自覚してプレーした。

 そして、ほとんどの選手が、ブラジルのクラブでプレーしている(五輪後に欧州に旅立つものもいるが)ことは、ある意味、本当のブラジルの代表だった。楽しんでサッカーをすることを思い出したセレソンは、久々に国民の心にサッカーへのプライドを蘇らせてくれた。

 しかし、忘れてはいけないのは、これはあくまでも五輪代表に過ぎないということ。金メダルに盛り上がった国民もいれば、あくまでも五輪の一競技程度にしか捉えない人々もいるのが事実だ。金メダルによって7-1の呪縛から完全に解かれたわけではないのだ。

 五輪終了間もなくして、新監督チッチがW杯ロシア大会南米予選で初采配をふるうことになった。メンバーには、五輪代表から7人がA代表に呼ばれた。
OA枠のネイマール、レナト・アウグスト、ウェヴェルトン。五輪前からA代表に名を連ねていたマルキーニョス、ガビゴウ、ロドリゴ・カイオが引き続き呼ばれ、そして今回ついにガブリエウ・ジェズスがA代表デビューとなった。

 南米予選7位と低迷を続けていたが、チッチ監督はコンパクトでスピードあるサッカーで見事チームを蘇らせた。エクアドルにアウェーで3-0、コロンビアとホームで2-1と6ポイントを得て、一気に2位に浮上。首位のウルグアイに1ポイント差に迫った。

 金メダルが全てを解決したわけではないが、間違いなくセレソンの名誉回復の強い追い風になった。強いセレソン復活の兆しは間違いなく見えてきた。(大野美夏=サンパウロ通信員)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る