【内田雅也の追球】中野の二ゴロが「線」を生んだ チーム打撃に見えた「利他」の心

[ 2021年8月27日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神9-3DeNA ( 2021年8月26日    京セラD )

<神・D(21)> 3回無死二、三塁、中野は二ゴロを放ちその間に三塁走者・ガンケルが生還し1点を挙げる (撮影・後藤 大輝)
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 阪神打線は久しぶりにつながった。よく言う「点」ではなく「線」になった。3回裏のビッグイニングである。

 投手ジョー・ガンケルと近本光司の短長打で無死二、三塁。この好機で見せた中野拓夢の打撃が「線」を生む、つながり重視の打法だった。

 1―1同点の序盤。相手二遊間コンビは引いて守っていた。「1点OK」の守備体形で二遊間に転がせば勝ち越し点が入る。この場合、やってはいけない打撃は三振や凡飛である。大振りを戒め、コンパクトなスイングを心がけたい。

 前夜、試合前の円陣で熊谷敬宥が言った「シャパ」(シャープ+コンパクト)である。心の持ちようも前夜からつながっていたのだと思いたい。

 果たして中野は見事に二ゴロを転がした。1ボール1ストライクから内角低め直球に詰まっても振り過ぎず、軽打した。勝ち越し点が入り、なお1死三塁を残した。

 続くジェリー・サンズは「外飛(犠飛)でいい」と楽に打席に立てた。だから、初球、甘いスライダーを力んで打ち損じず、左翼席まで運べたのだ。「いい流れで自分に回してくれた。あとは走者を還すだけだと思っていた」は本音だろう。これがつながりである。

 <次の人をいかにラクにさせるかというのは、チームプレーの鉄則でもある>と興南高(沖縄)監督の我喜屋優が著書『逆境を生き抜く力』(WAVE出版)で記している。監督・矢野燿大が現役引退後に読んだ教育論である。<見返りがなくても他人のために何かをするという、利他的な精神を少しだけもってみてほしい>。

 中野の凡打には昔で言う勝利打点が付いた。数々の記録を残した金本知憲が引退会見で「誇れる」と言ったのは連続1002打席無併殺打(プロ野球記録)だった。凡ゴロで自身の打率は下がるが、疾走で一塁に残り、次につなげようとする。こうした無私の姿勢こそ勝利の源となる。

 矢野はだから地味な二ゴロを「大事な1点。中身の濃い打撃」とたたえたのである。こうした利他や無私の心――つまりチームプレー――が集まれば、優勝にふさわしいチームとなれる。

 最後の一つ。3回裏の残る1点はサンズ2ランの後の大山悠輔三塁打と佐藤輝明犠飛だった。大山が三塁まで走ったのは打球からして当然だが、常に力走する姿勢は買いたい。1回裏2死でも、一塁走者として佐藤の遊飛に懸命に二塁~三塁と走っていた。

 不調の4番、主将の苦悩は推して知るべしだが、勝利に向けた力走姿勢は目にとまった。 =敬称略= (編集委員)

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