【内田雅也の追球】満塁での“謙虚な”打撃 強引さ戒め、先発・田口をKOした阪神打撃陣

[ 2021年3月28日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神9ー5ヤクルト ( 2021年3月27日    神宮 )

<ヤ・神(2)>初回無死満塁、大山は右犠飛を放つ(投手・田口)(撮影・坂田 高浩)
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 外野飛球で走者が得点した際、打者に打点がつき、打数は免除される。この犠飛規定は日米とも幾度も適用・非適用を繰り返した。プロ野球では1954(昭和29)年以降、適用で定着した。

 犠打が記録される送りバントのように、打者の「犠牲」意志が見分けづらい。浅い飛球でも好走での生還もある。このため、米殿堂入りアナウンサー、「ドジャースの声」のビン・スカリーは「犠飛」でなく「得点外飛」と呼んでいた。

 その点、この日の阪神の外飛は明らかな犠飛だった。1回表、無死満塁で大山悠輔右犠飛、ジェリー・サンズ中犠飛の連続犠飛はともに中堅から反対方向へ打ち上げた。

 犠飛を「最低限の仕事」などと言うのを耳にするが、実際はそんな簡単な打撃ではない。相手バッテリーも適時打はもちろん、外飛も打たせまいと投球してくる。

 通算犠飛95本で歴代4位の門田博光(南海―オリックス―ダイエー)は外飛を話し言葉の「外野フライ」ではなく、そのまま「ガイヒ」と呼んで、大切さを語っていた。

 「走者三塁でガイヒを上げるには強引になってはいかん。手首を返さず、バットにボールを乗せて、反対方向へ打ち返すことだ」

 門田は79年2月、右足アキレス腱(けん)断裂の大けがをした際、中国の古典『菜根譚』に出会った。なかに「径路(けいろ)の窄(せま)き処(ところ)は、一歩を留めて人の行くに与えよ」とある。狭い道では立ち止まって、人に譲る心がけが必要だと謙虚の美徳を説いている。犠飛のコツも強引さを戒めた謙虚な姿勢にあるようだ。

 また、3回表1死満塁では梅野隆太郎が右翼線へ2点二塁打。ヤクルト先発・田口麗斗を降板に追い込んだ。これも同じく、謙虚な反対方向への打撃姿勢が見えた。

 阪急、近鉄を球団創設初優勝に導いた闘将、西本幸雄は無死や1死満塁で打席に向かう右打者に「サードゴロは打つなよ」と声をかけたそうだ。阪急時代の選手、大熊忠義から聞いた。

 引っ張りの三塁ゴロを禁止すれば、自然と中堅から反対方向を意識する。引っかけての内野ゴロ、最悪の併殺もない。たったひと言で端的に強引さを戒めていた。まさにこの日の大山、梅野が見せた打撃姿勢である。

 「無死満塁は点が入らない」などと言う。統計的には得点確率も期待値も高いが、無得点に終わった場合の印象が強く残る。西本は「最初の打者による。1人目が走者を還せば、大量点が望める」と話していた。

 ならば、初回無死満塁での大山は謙虚さとともに、4番の面目を保ったと言える。

 最後にもう一つ、阪神の積極走塁を書いておきたい。1回表には無死一、二塁、ジェフリー・マルテがフルカウントになった際の走者スタート(ランエンドヒット)、同じく無死満塁、右犠飛での一塁走者・マルテの二進があった。終盤7回表の佐藤輝明二盗、9回表の代走・江越大賀の二盗、三盗……と果敢に走り、攻める姿勢を貫いた。

 序盤に6―0と大量リードしたが、神宮での試合は乱戦になることが多い。次塁を狙い、攻撃の手を緩めぬ姿勢があったからこそ、危なげなく勝ちきることができたとみている。=敬称略=(編集委員) 

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2021年3月28日のニュース