個人の義務の先に…阪神、首位と9・5差でも絶望している暇ない

[ 2016年6月26日 10:15 ]

<広・神>6回表2死二塁、福留は二塁内野安打を放ち、日米通算2000本安打を達成する(投手・岡田)

セ・リーグ 阪神2-4広島

(6月25日 マツダ)
 【内田雅也の追球】日米通算2000安打を達成した阪神・福留孝介も複雑な心境だったろう。確かに偉業だが、記念の安打を放ったのが0―4と劣勢の6回表2死一塁。個人記録とチームの勝利。団体競技では勝利につながる功績こそ、心の底から喜べる。

 ただし、そのチームの勝利のためには個人個人の働きが肝要になる。

 巨人9連覇の名参謀、牧野茂がチームワークについて語っている。「チームプレーのなかには個人が果たさなければいけない義務がある。ケース・バイ・ケースで個人が能力を発揮することが義務で、それを総合化して戦力をつくり上げるのが監督の采配です」。労働省(現厚生労働省)広報室編『労働時報』1980年3月号の『巨人V9と組織管理』にある。

 そして牧野は「チームワークは後からついてくるものですね。勝てば勝つほど選手が結束した」と語っている。

 打線全体が沈滞して久しい阪神だが、福留は一定の好調を保ってきた。もちろん2000安打という大きな節目が精神的な支えになっていたこともあろう。いや、もともと福留には「自分のできることをやる」という基本的な姿勢がある。

 大リーガーたちがよく使う言葉に「自分がコントロールできないことは気にしない」がある。野茂英雄も松井秀喜もそして福留も口にしていた。チーム順位、試合展開、相手投手の出来、審判の判定、暑さや雨風……など、周囲を気にせず、自らの職務に没頭する。

 大リーグに限らない。明治時代、日本での野球草創期に無敵を誇った一高の投手・守山恒太郎は「ノー・コンディション」と言った。君島一郎『野球創世記』(ベースボール・マガジン社)に<コンディションがこうだ、ああだというような自己弁護を許さぬ、つまり「言い訳無用」の意味ととる>と記されている。

 準備を整え、全力を尽くす。福留が実践する一流プロの姿勢に通じる。

 借金は4年ぶりとなる6、首位に9・5ゲーム差に開いた。先が見えず重い空気が漂う。それでも毎日、試合はある。絶望している暇はない。

 重松清『熱球』(新潮文庫)には無名高から甲子園を目指す少年を元球児の主人公が励ます。「甲子園までは死ぬほど遠いけどな、でも、ちゃんと道はあるんだ」。

 上も先も見えづらいが阪神にも道はある。まずは個人が義務を果たすことだろう。=敬称略=(スポニチ編集委員)

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