現役引退の増渕 家族のための9年間「それでいいんですよ」

[ 2015年10月17日 08:30 ]

引退を発表した増渕

 日本ハム・増渕から黄色いグラブをもらった。球団から呼び出された2日、千葉・鎌ケ谷で戦力外通告を受けた直後のことだ。球場のロッカールームを片づけ、隣接する合宿所に戻ろうとしたところですれ違い、目があった。その瞬間、今季使用していたグラブを差し出された。

 ヤクルト時代の10年にセットアッパーとして57試合登板、翌11年は先発として7勝をマークした。しかし、14年に日本ハム移籍してから1軍登板はなかった。この2年間は投球フォームが固まらず、自慢の剛速球も影を潜めていた。

 プロの世界で9年間も飯を食ってきたのだから、チーム内で自分がどの位置にいるのかも、だいたいは分かる。9月下旬に会った時には「いつクビになっても後悔しないように、毎日取り組んできた。だから、最後まで一生懸命練習する」と話していた。

 06年高校生ドラフトでヤクルトと西武の2球団から1巡目指名を受けた。その瞬間を、埼玉・鷲宮の体育館で取材したのが初めての出会いだ。元ヤクルトレディーの母に女手一つで育てられた。プロで活躍して稼いだ給料で、大学で野球をする弟の学費も負担した。

 そんな弟も来春大学を卒業し、社会人となる。荷物整理を済ませ、車で帰宅しようとした増渕を引き留めた。「弟のために頑張ったプロ生活だったな」と声をかけると「それでいいんですよ」と笑顔で返された。

 そういえば、入団2年目の08年に公式戦で使用していた青色グラブをもらったことがあった。そのグラブの手のひら部分には「親孝行」と刺しゅうされていた。今季限りで現役引退を決断したというが、家族のために頑張った心優しい男に拍手を送りたい。(横市 勇)

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2015年10月17日のニュース