佐藤満氏 レスリング・樋口は8年間の成長示したベテランの判断 桜井の強さは安定した組み手

[ 2024年8月11日 03:00 ]

パリ五輪第15日 レスリング ( 2024年8月9日    シャンドマルス・アリーナ )

<パリ五輪 レスリング>男子57キロ級決勝、金メダルを獲得する樋口黎(撮影・平嶋 理子)
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【佐藤満 評論】 厳しい決勝だったからこそ、樋口の成長が明確になった。米国選手は樋口の片脚タックルを防ぐため、前に出ている右脚をガードする作戦で、樋口としては序盤、攻め手がなかった。また、攻撃的選手が守備的な試合をしてきたことに戸惑いもあったと思う。

 だが、先制されたあとの第2ピリオド開始27秒、両脚タックルに切り替えた。倒すことはできずバックに回ったが、相手のカウンター技からもつれた状態で“三の矢”として相手左腕を巻き込み、鮮やかに返した。その後の反撃も冷静な判断でしのぎ、終了間際の追加点は必然だった。

 片脚から両脚への狙いの切り替えも、腕を取っての巻き込みも、ベテランならではの瞬時の判断だったと思う。16年リオで銀メダルを獲った頃なら、スピードにものをいわせて片脚タックルにこだわり、自滅した可能性もある。試合ごとに6~8キロの減量をこなしながら、雪辱の機会を8年も待った男の悲願の金メダルを、心から祝福したい。

 桜井のレスリングはなんといっても組み手、特にツーオンワン(両手で相手片手の動きを制御)の強さに尽きる。海外選手に力負けしないことが特長で、組み負けた相手は攻撃に入りづらく、体力がどんどん削られる。攻撃の遅さが課題だったが、決勝は次々とポイントを取り、成長を見せてくれた。

 実はジュニア時代に桜井を指導した経験がある。国体での低迷を受け高知県が競技力向上を目指し始めたとき、強化対象となったのがレスリングで、指導者として招聘(しょうへい)された。組み手も含めた基礎を指導したが、上半身の組み手を重視するグレコローマンを経験した父・優史さんの影響も大きかっただろう。

 19年のインターハイ女子53キロ級決勝で藤波と対戦した際は4―7での敗戦。藤波圧勝を予想する声が大きい中、接戦を演じている。組み手がしっかりできる選手は大崩れしない。まだまだ勝ち続ける可能性はある。 (88年ソウル五輪金メダリスト、元日本男子強化委員長、専大教授)

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