花園への道を踏み出した高校生たち 印象に残った合同チームの魂のタックル

[ 2020年9月3日 08:30 ]

<仙台工・合同>後半終了間際、激しい攻防を繰り広げる仙台工(赤白)と合同チーム
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 全国高校ラグビー大会出場を懸けた都道府県予選が、47都道府県の先陣を切って宮城県で始まった。例年であれば東京から離れた一地域の、しかもシード校の登場がない1回戦から取材に向かうことは、ない。望む、望まないにかかわらずだ。しかし今年は特別な年。さまざまな関係者が粉骨砕身でこぎ着けた開幕を取材するため、早朝の新幹線で北へ向かった。

 オープニングゲームはいきなりの同点決着で、抽選の結果、仙台工が2回戦進出を決めた。ただ25分ハーフの計50分間、何よりも印象に残ったのは、残念ながら花園への道が断たれた仙台南、仙台東、仙台二、古川工の計4校による合同チームのディフェンスだった。誰にはばかることなく、それは魂のタックルと呼んでいい守りっぷりだった。低く鋭く、時に腰にまとわりつき、相手を止める。最終スコアは12―12。そこには確かに敗者はいなかった。

 新型コロナウイルスの影響で、宮城県内の高校は3~5月が休校となり、部活動も止まった。どのチームも状況は同じ。背負ったハンデキャップの大きさも同じはずだが、合同チームへの影響は、とりわけ大きかったという。

 15人に満たない部員不足のチームも花園を目指せるようにと設けられている制度。例年なら新入部員が確定する5月ごろには、合同チームを組む高校が確定する。ところが新学期開始が6月だった今年は、新入部員が確定したのも2カ月遅れ。さらに最後のシーズンを迎える前に受験勉強にシフトする3年生部員もいて、各校の部員の足し算に微妙な狂いが生じた。当初は想定していなかった組み合わせによる合同チーム結成が決まったのは、7月中旬のこと。全員がそろって練習ができたのは、わずか10回ほどだったという。

 だからこそなのだろう。合同チームのメンバーのタックルには、1人1人の責任感が宿っていた。一緒に練習した時間は短い。重ねた練習試合も片手ほど。複雑なサインプレーを落とし込む時間はない。でも各校での平日練習でタックルを磨くことはできる。それを1人1人がやり切ろう。その気概に満ちあふれていた。合同チームの主将を務めた古川工のフランカー加藤幹紀(3年)は「(部員が2年生以下だけの)他校の選手がよく付いてきてくれた。こういう機会があるだけで幸せでした」と、ラグビーができる喜びをかみ締めた。

 仙台工の阿部宏喜監督は、開幕日の2試合が終わると、安どしたかのような表情を浮かべていた。抽選で2回戦進出が決まったからではない。宮城県高体連のラグビー専門部委員長として、無事開幕にこぎ着けたからだった。「“気持ちを切らないように”と生徒に言っても、大会を開催できる保障はどこにもなかった。春先の基礎の積み上げがないから、練習強度の調整も難しかった」。監督としては手探りで、運営責任者としても気苦労は絶えなかった。それでも6月、グラウンドに戻ってきた生徒は「本当に表情が良かった。ラグビーができる喜びというのかな」。自校の部員のためだけにではない。宮城県の高校生ラガーのために「たとえ全国大会ができなくなっても、何とか県予選は最後までやってあげたい」と心に決めた。

 まもなく全国各地で、同じような思いを持つ高校生が、それを支える人たちが、花園への道を踏み出す。願わくば、その道が見えない敵によって阻まれぬよう。(記者コラム・阿部 令)

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2020年9月3日のニュース