スケートボード女子パークの先駆者、中村貴咲が切り開いた道程と東京五輪

[ 2020年8月21日 08:00 ]

スケートボード女子パークの中村貴咲
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 東京五輪の追加競技となったことで、スケートボードはカルチャーだけでなくスポーツとしての側面も注目されるようになった。日本が本場・米国、ブラジルに次ぐ勢力となった背景の一つには、スポーツとしてのスケートボードを発展させた先駆者の存在がある。来夏の表彰台独占を期待される女子パークでその役割を果たしたのが、14歳で海外進出した中村貴咲(20=木下グループ)だ。

 女子パークの五輪世界ランキングは20年8月現在、1位に岡本碧優(14=MKグループ)、2位に四十住さくら(18=和歌山・伊都中央高)、そして中村が7位と日本勢が群を抜いている。代表監督の西川隆氏は日本女子の強さをこう分析する。「女子パークの場合、男子と比べて国内の大会がなかったので、早い時期から海外に行く機会が多いんですね。貴咲がチャンスをもらって(海外の大会に)出るようになってから、そこをみんなが目指して成長していった」。

 中村とスケートボードの出会いは6歳の時。サーファーだった父が娘をプロサーファーにすべく陸上トレーニングの一貫でスタートさせ、のめり込んでいった。自分のサーフボードで海に出たこともあったというが「サーフィンはあんまり好きじゃなかった」と振り返り、「海だと一人一人が離れているじゃないですか。スケボーは友達と会話しながらできるので」と笑った。

 大会に出場し始めた8歳頃から、スケートボードは遊びじゃなくなっていった。「周りの子が出てみるってなって、それじゃ私も、という流れで。父が車とかで(大会に)連れて行ってくれたりするので、家族全体が本気になり始めました」。小学生のうちに大人も交じる国内大会を制するなど成長。少女がフィールドを海外に広げることは必然だったかもしれないが、きっかけはその非凡な才能だけではなかった。

 「自分がしたいのはパークだったんですけど、日本では元々、大会がストリートしかなくて。しぶしぶストリートを練習していたって感じだった。でもアメリカでは、パークスタイルっていう種目が大会であったので」

 中学2年時にスケートボード関係者と渡米する機会があり、大会を見にいった際に運営者と知り合うことができた。当時も大会出場には招待が必要で「出たいという気持ちだけでは出られなかった」という。そこで中村はその大会運営者に自身の滑りを撮影した動画をメールで送り、自らをプレゼンした。熱意は実り、14年の年明けに米カリフォルニアで開かれた大会の出場が決定。そしていきなり準優勝という結果を残した。

 その一戦を機に様々な大会から招待されるようになったが、当時は女子パークで海外を転戦する前例は極めて少なかった。臆せず開拓していった中村は、その時に感じた本場の空気感を振り返る。「日本の大会だと見に来るのは親とか友達なんですけど、アメリカとかだと観客として人がいるんです。スケートボードが一つの種目として、競技として見られているんだなって」。そして16年、米オースティンで行われた世界最高峰のコンテストであるXゲームで優勝。アジア人初の快挙で世界に名を刻んだ。

 スケートボードが東京五輪の正式競技に決まった時、中村は迷わなかった。特にストリートのプロの世界では、大会よりも街中など様々な場所で技や滑りを撮影したビデオパートを重視することがあるが、「撮影とかいろんなジャンルがあるけど、自分は元々大会に出たいという気持ちがあってスケートボードをしているので」とキッパリ。五輪もその大会の一つだという。さらに五輪の存在で気付けたこともある。「これまで大会は招待制なのでアメリカ人が中心だったけど、五輪予選となるとあまり見たことのない国の人が選考に来たりする。世界中にスケートボードをしている人がいっぱいいるんだなって感じました」。

 コロナ禍で約1カ月間、パークで滑れない時期を挟んだが、現在は来夏に向けて再スタートしている。「2020年で20歳ってキリが良いなと思っていましたけど、そこまで今年に執着心はなかったです。練習時間が増えたっていう感覚」。元々緊張しやすいという中村は、昨年から始まった五輪予選では思うような滑りができず「スランプまではいかないけど、プレッシャーに負けた感じだった」と振り返る。それも延期で仕切り直し。さらなる大技のメイクと飛躍を期する。

 「まずは内定をもらうことですね。強化するのは回ること。自分も回って板も回す、それが大事になってくると思うので。家族、友達、一緒に滑っている仲間、サポートしてくれる人たち全員に見せたい」

 道を切り開き、日本のスケートシーンをけん引してきた20歳。来年の夏、とっておきの滑りを見せてくれるに違いない。(記者コラム・鳥原 有華)

 ◆中村貴咲(なかむら・きさ) 2000年(平12)5月22日生まれ、兵庫県神戸市出身の20歳。6歳から競技を始め、神戸市のGスケートパークで技を磨く。16年Xゲーム・オースティンで日本人初優勝。18年バンズシリーズ・ハンティントンビーチで優勝。19年同シリーズ上海大会準優勝。

 ▼スケートボード五輪選考 パークとストリートの2種目を男女各20人で競う。21年開催の世界選手権3位以内と5月末までの五輪ランキング上位選手に1カ国最大3人の出場権が与えられる。日本は開催国枠で各種目1人は出場可能。

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2020年8月21日のニュース