9秒台4人の最強布陣組める!! 高野進氏が分析 男子400メートルリレー金へ、過密日程緩和は好材料

[ 2020年6月8日 05:30 ]

五輪延期の光と影

サニブラウン・ハキーム
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 陸上はマラソン、競歩以外の種目の代表選考は来年に持ち越しとなるため、五輪出場には1年間の過ごし方が大きく関わってくる。92年バルセロナ五輪男子400メートル8位入賞で同種目日本記録保持者の高野進氏(59=東海大体育学部教授)は過密日程が続いた短距離勢にとって、五輪の延期は選手たちが充電できる好材料と分析。金メダルを狙う男子400メートルリレーも9秒台4人の“最強布陣”が組める可能性も示唆した。

 日本が政治的理由でボイコットした80年モスクワ五輪のように4年周期が飛んでしまったとなると選手にとって影響は大きいが、今回の東京五輪は1年間の延期。選手は大きく影響を受けるというふうに考えなくても良いだろう。若手や中堅の年齢で伸び盛りの選手が多い。400メートルリレーの候補選手たちにとっても1年の延期は問題ないと考える。

 理由の一つとして、ここのところの日程が挙げられる。昨年は5月に横浜で行われた世界リレーや9~10月のドーハ世界選手権などシーズンが長かったので一度休息を入れられるのはメリットだ。短距離勢は五輪出場権を獲るための海外遠征も多かった。遠征でうまくいった選手は良いが、良くなかった選手もいた。この1年延期をうまく活用できればみんなが良い状態でスタートラインに立てるし、代表権争いも熾烈(しれつ)になるはずだ。

 男子400メートルリレーにとっても悪いことばかりではない。サニブラウンも冬季練習をもう一度積むつもりでこの自由な時間をうまくつくり上げてほしい。日本陸連は個人種目に制限を設けない方針なのでリレーと個人種目を兼ねることができる。彼なりの考えでエントリーを決めてくれればいい。我々の理想は9秒台の4人がバトンをつなぐこと。この延期で多くの選手が9秒台に入る準備をしてシーズンを迎えられるはずだ。

 選手によっても調子のサイクルがある。昨年は肺気胸で日本選手権を欠場し、無念のシーズンとなった山県は1年ごとに良い時、悪い時が来るように感じる。その周期をうまく考えないといけない。私自身を振り返れば、91年東京世界選手権と92年バルセロナ五輪が連続で来るということで、これまでの4年周期を変えないといけないと思っていた。88年ソウル五輪後、1年間休んで、3年目の東京とバルセロナに合わせたら両方とも決勝に残ることができた。そういう1年の使い方もある。この1年間というのは年齢的に余裕があればプラスの方が場合によっては大きいかもしれない。戦略さえ組めれば山県も本人が持った以上の成績を導き出すことはできるだろう。

 一方で、20年を競技人生の集大成と位置付けていた選手やピークを迎えている選手にとっては、この1年の差は大きい。男子マラソンの瀬古利彦さんは、ボイコットしたモスクワ五輪の時に最も勝率が高かったが、4年後のロス五輪では勝負ができなかった例もある。私はバルセロナ五輪に31歳で出場したが、当時の私の年齢で1年延びるというのは厳しかったと思う。30歳を越えた1年と20代の1年は全く違う。短距離で考えるとリオ五輪400メートルリレー銀メダルメンバーの飯塚は21年の五輪の時には30歳となる。20年に懸けてきた選手に限って、1年延期は骨が折れるなという感じだ。

 ただ、延期が選手寿命を延ばすという捉え方もできる。アテネ五輪男子100メートル金メダリストのガトリン(38=米国)はドーピング違反で4年間の謹慎期間があり、2010年に28歳で公式戦に復帰した。やったことは良くないが、復帰後はロンドン五輪で銅メダル、昨年の世界選手権では2位になるなど実力はいまだ健在、試合に出られなかった4年間が選手寿命を延ばしているのだろう。30歳で終わりと思っていたところ、2年3年と長く競技ができることもある。延期で焦って右往左往せず、ゆったりと構えていればいい。

 世界陸連の発表では、東京五輪の参加標準記録が有効となるのは今年の12月1日以降となる。10月の日本選手権で好記録を出しても五輪には直結しない。短距離選手が記録を出そうと思ったら暖かい沖縄で試合に出るか、海外で試合を見つけるしかない。普段のサイクルを崩して12月に記録突破を狙うのか、今まで通りに来春以降に狙いを絞るのか戦略も分かれる。短距離選手のために12月以降に何かしらの記録会を日本陸連が開催するのも一案だと思う。

 ◆高野 進(たかの・すすむ)1961年(昭36)5月21日生まれ、静岡県富士宮市出身の59歳。五輪、世界選手権いずれも3大会連続で出場。92年バルセロナ五輪男子400メートルでは32年ロス五輪の吉岡隆徳以来、陸上短距離60年ぶりのファイナリストとなり8位入賞。男子400メートル日本記録保持者(44秒78)。東海大体育学部教授。

 ▽陸上東京五輪への道 陸上は1種目最大3人。現状では、参加標準記録を突破するか、世界ランキングで出場資格を満たした上で日本選手権3位以内、などが条件になっている。10月に延期となった日本選手権は代表選考は行わず、来年の日本選手権が五輪代表選考会となる見込み。


 《8月から国際大会開催も…出場には慎重姿勢》
 世界陸連は国際大会スケジュールを8月から10月までの3カ月の間で開催すると発表した。格付けの高いダイヤモンドリーグをはじめ、世界ランキングポイント獲得に関わる大会が続くが依然として世界中で新型コロナウイルスは拡大。大会への出場には二の足を踏む状況が続きそうだ。

 男子走り高跳び日本記録保持者の戸辺直人(28=JAL)は大会ごとに出場種目を見極めて出場する意向だが「開催地の態勢が不透明な部分も多い」と状況を注視。男子短距離の小池も「ダイヤモンドリーグへ出場意思はあるが、世界情勢も含めて判断したい」と慎重だ。米国を拠点にしているサニブラウンは欧州への移動手段が限られているというが「試合があることはモチベーションになる」と前向きに捉えている。

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