追悼連載~「コービー激動の41年」その102 44歳で初めてオニールが抱きしめた実の父親
2016年3月、自分の生まれ故郷でもあるニュージャージー州ニューアークの空港に専用の小型ジェット機で到着したシャキール・オニール(当時44歳)は、空港から4キロほどの場所にあるレストラン「ボンダ・キッチン」に向かった。そこで待っていたのは70歳となっていたジョー・トーニーさん。オニールがニューアーク市内の病院で生まれた1972年3月2日以来の“再会”だったが、息子にとっては初めて目にする実の父親の顔だった。
トーニーさんはレストランの椅子から立つことができなかった。テレビでは数えきれないほど見てきた息子の姿だったが、自分の目で見たのは44年ぶり。その気の遠くなるような時間を隔てて襲ってきた衝撃が普通のあいさつをするだけの理性を奪い取っていた。
そこへ近づいてきたオニールはトーニーさんの肩に両手を置き、その目を見つめながら万感の思いをぶつけた。
「あなたを判断する権利は自分にはありません。でも、決して憎んではいません。僕はいい人生を歩むことができました。刈るべき芝が自分の家にあり、自分の部屋もあります。小さいころにケンカをしたことはありますが、撃ち合いがあるような街角をうろうろするようなことはありませんでした。何も文句はありませんよ」
そして「憎まれているのかもしれない」と思っていたトーニーさんは44年間も抱えていた重荷をようやく下ろした。親子の面会は45分間。NBAのスーパースターとなった息子に抱きしめられた父は「自分は間違った道を歩んだ。でもこの26年間はまじめに生きてきたんだ。信じてほしい」と、福祉施設に勤務するソーシャルワーカーとして人生を立て直したことを目をうるませながら訴えていた。
元々は有能なバスケットボールの選手でありながら薬物に手を染め、小切手の偽造やクレジットカードの悪用で逮捕されてオニールが生後6カ月のときにケンタッキー州レキシントンの刑務所で服役。出所したのはオニールが10歳のときだった。ドラッグに溺れていたが「さらにやっていたら死んでいた」という状況の中からリハビリ施設に入って崖っ縁で自分の人生に踏みとどまった。それがその34年後に実現する息子との再会につながった。
オニールはトーニーさんとのツーショットを撮影して母ルシールさんに送信。そこには「ママ、僕の隣に今、誰がいると思う?」というメッセージが書き込まれていた。
ルシールさんにとってトーニーさんは前夫。高校時代のボーイフレンドでもあった。トーニーさんが親権を委ね、オニールの養父となったフィリップ・ハリソンさん(2013年9月に他界)がその後の夫となるが、母にとっても息子が44歳にして実の父親に会えたことは感慨深いものがあったと思う。
レイカーズでオニールとの共闘で3度のファイナル制覇を達成するコービー・ブライアントはバネッサ夫人との結婚に反対した父ジョー・ブライアント氏(元76ers)と母パメラさんと数年間、断絶状態にあったが、その後に関係は修復。イタリア生活も経験するなど家庭環境には恵まれていた。
一方、オニールが少年時代を過ごしたニューアーク市(ニューヨークの西13キロ)は当時、車両の盗難件数が全米ワーストで薬物犯罪もまん延。ハリソンさんはオニールの行く末を心配して陸軍に入り、ニューアークを脱出して基地生活を送るようになったが、ドイツ・ビースバーデン(フランクフルト郊外)にいたときにオニールは悪友と車を盗んでハリソンさんにきつく叱られた。だからもしニューアークでの生活が続いていたら、オニールも谷底に落ちていたかもしれない。
レイカーズ時代、オニールとブライアントは衝突を繰り返し、犬猿の仲となった。ブライアントの葬儀でオニールは「カメラが回っていないところではウインクを交わしていた」と繰り返された騒動は“見かけだけ”と語っていたが、今となってはその真実を究明する必要はないだろう。あのときのレイカーズを支えた黄金コンビは、そもそもたどってきた人生がまったく違う。父の存在も対極の位置にあった。考え方が違っていて当たり前なのだ。だからよくぞこの2人がNBAの頂点に立つチームワークをコート上で築き上げたと思う。それこそが“奇跡”ではなかっただろうか?(敬称一部略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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