逆境に立つ青木瀬令奈の雑草魂 下部ツアー出身で“選手会長”異例の抜てき「今年、私で良かった」
日本女子プロゴルフツアーの選手会に当たるプレーヤーズ委員会の新委員長に今季、プロ10年目の青木瀬令奈(27=マツシマホールディングス)が就任した。“エリート選手”が歴代委員長の大半を占める中、誕生した下部ツアー出身の異色のリーダー。コロナウイルス感染拡大というかつてない逆境の中、どのような役割を果たすのか。ビデオ会議アプリ、Zoomを使ってインタビューした。
時間の経過とともにゴルフ界を取り巻く環境は厳しさを増している。女子ゴルフが開幕を迎えるはずだった3月から2カ月。既にメジャー1試合を含む14試合が中止に。危機的状況の中、青木新体制はスタートを切った。
「ここまで延びると正直……。2、3試合とか、3月いっぱいぐらいまでは中止なのかなあ、なんて予想はしてたものの、10試合以上も中止になってしまうと、空っぽな感じがあります。プロゴルファーは練習が仕事なんで練習はなるべくしつつ。ただ、仕事してるのにお金が入って来ないみたいな……」
一個人としては不安に感じることも少なくないが、新リーダーとしての青木は激しい逆風の中にも大きなやりがいを感じている。
「私は結構、まめな方。逆に今年、私で良かったんじゃないかなって。あとは歴代の委員長ってエリート街道を進んでる選手がほとんど。この現状でお金がないっていう下部選手の苦しさとかを協会に伝えられるのは私。今年なった意味はそういうところにもあるのかなって」
比嘉真美子、有村智恵ら歴代委員長がプロ入り当初からレギュラーツアーで活躍していたのに対し、青木はプロ入りから3年半、下部ツアーで下積み生活を送った。燃料代の捻出に窮し、自宅から車でわずか10分の練習場に通うのをためらったこともある。コロナ禍により苦境に立っている仲間に寄り添い、代わりに声を上げることができるのは自分だという強い思いがある。
もう一つの強みは事務処理能力。青木は群馬・前橋商高時代に簿記や情報処理を専門的に学んだ。その時の経験が今生きている。
青木は委員長就任後、協会とツアー選手の仲介役として2度、アンケートを実施した。前任の有村から引き継いだ会員148人のグループラインを活用して集約した意見は、高校時代に習得した情報処理技術で迅速に、協会、大会主催者にフィードバックした。
こうした調査を通じて青木は改めて選手の声に耳を傾けることの大切さを知る。
シーズン開幕の時期について3月末に実施した1回目のアンケートの選択肢は以下の通り。
(1)今すぐ試合を開催してほしい。
(2)今はまだ、開催すべきではない。
(3)安全対策が整っていれば、今すぐ開催してほしい。
(4)他のスポーツ団体と足並みをそろえる。
(5)その他。
複数回答可。
「私個人としては、対策が整っているのであれば、みんな試合がしたいのかなって思ってたんですよね。私の想像より慎重な意見が多くて。今はまだ、ほかのスポーツ団体と足並みをそろえて様子を見るべきという意見が一番でした」
同世代のプロ仲間と頻繁に意見交換していた青木には意外な結果だった。
大会中止の発表が相次いだこの2カ月間、当初は主に大会開催の有無だった選手からの問い合わせは、経済的な窮状など多岐にわたってきた。たとえば、協会への年間登録料。コーチ5万円、トレーナー10万円。試合数減に伴う減額はあるのか。夏以降のツアー出場権を決めるリランキング制度は。日本に入国できない外国勢は。プロテストの実施は……。ゴルフ界に飛び交う数々のうわさが選手の不安をあおっている。そうした状況を鎮めるため協会に情報開示を求めるのも青木の重要な役割となる。
青木自身は緊急事態宣言後、ゴルフ場でのラウンドを一時自粛。歌がうまくなりたいと購入したレコーディングマイクで大好きな宝塚歌劇団などの歌を録音することでストレスを発散している。
「趣味にも全力なので」
縁の下の力持ちとして青木はツアー仲間の声を発信し続ける。
≪2勝目へスイング改造着手≫プロゴルファー青木としての今季目標は明確。17年ヨネックス・レディース以来の2勝目、そして今季優勝者と賞金ランク上位者のみに出場資格が与えられる最終戦のツアー選手権リコー杯への出場だ。昨年、テレビ画面越しに鈴木愛や渋野日向子が最終戦まで賞金女王争いを繰り広げる姿を見て「やっぱりもう一度、行かなきゃ。ファンの人を連れて行きたい」と強く思った。
目標に向けて、オフからスイング改造に取り組んでいる。3月にはスイング解析システム「GEARS(ギアーズ)」で測定。スイング中の体とクラブの動きを360度の方向から3次元で計測する世界最先端システムで、「クラブの運動量がとても少なかった。自分の体が頑張っちゃっていて」と道具を生かし切れない動きをしていたことに気がついた。クラブの上げ方から振るまで、4、5つのポイントを考えながらスイングをチェック。現在は特に肘が浮いてしまう悪癖を修正中だ。「毎日、新たな発見がある」。試合ができない日々も、成長への糧とする。
≪協会との懸け橋役≫プレーヤーズ委員会は、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)内の選手会に当たる。日本プロ野球選手会のように独立した組織とは異なり、JLPGAのトーナメント事業部の下部組織に位置。協会と選手との意思疎通を図り、選手の意見を伝達する役割などを担う。17年まではミーティング委員会と呼ばれていた。定員は12人以内で任期は1年間。19年は有村智恵が委員長を務めた。
◆青木 瀬令奈(あおき・せれな)1993年(平5)2月8日生まれの27歳。群馬県前橋市出身。音楽家の両親が「セレナーデ」から命名。7歳からゴルフを始める。群馬・前橋商高1年だった2008年全国高校ゴルフ選手権で優勝。2011年にプロテスト合格。2015年からレギュラーツアーに昇格し、2017年ヨネックスレディースでツアー初優勝。1メートル53、50キロ。血液型O。大西翔太門下。成田美寿々とともに宝塚歌劇団の大ファンとして知られる。
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