追悼連載~「コービー激動の41年」その52 奇跡のヒーローは「DEAD―EYE」

[ 2020年4月8日 08:30 ]

残り0.4秒からブザービーターを決めたフィッシャー(AP)
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 2004年5月13日。プレーオフ西地区準決勝、レイカーズ対スパーズの第5戦は最後までもつれた。残り0・4秒、ティム・ダンカンが正面から体勢を崩しながらもジャンプシュートを決めた時点でスパーズが73―72とリード。誰もが試合は終わったと思った。ここでレイカーズ→スパーズ→レイカーズの順でタイムアウトが3回取られ、時間が止まる。そして試合再開。レイカーズのゲイリー・ペイトンがスローインのために左のサイドライン際に立った。まずシャキール・オニールがアリウープによるダンクを狙ってゴール下に近づいたが、ラショー・ネステロビッチが先回りしてパスコースを封鎖。左45度の3点シュートラインに上がってきたコービー・ブライアントはダブルチームに遭ってターゲットとしての意味合いを失っていた。カール・マローンはシュート・モーションが大きく、0・4秒ではボールをリリースできない。ついにペイトンの選択肢はひとつとなった。

 フリースロー・ラインから最後に動き出したのは、ブライアントと同じ1996年のドラフト1巡目(全体24番目、ブライアントは13番目)で指名された185センチのデレク・フィッシャー。ブライアントが2人を引きつけたので、マークしているのはマヌー・ジノビリだけだった。

 だが大きな問題があった。フィッシャーは左利きだ。フリースロー・ライン付近から左45度に回り込んでシュートを放つには、右利きの選手と違って上半身を反転させる必要がある。これだけでも時間をつぶしてしまう。だから最後の選択肢だった。それでもフィッシャーがドラフト時にスカウトに指摘された「シュート・モーションにクセがある」という部分がここでは最大の武器になった。

 ジャンプシュートの基本はボールを頭上のやや前方寄りにセットし、ひじをきちんと伸ばしてリリースすることである。一方、左利きのフィッシャーはボールを頭の左横にセットする。決して頭上までボールを引き上げることはしない。かつてジャズのポイントガードとして活躍したジョン・ストックトンがこのフォームだった。彼は右利きだったので顔の右側にボールをセット。どちらもトップの位置にまで上げないので100分の1秒、あるいは1000分の1秒単位の時間を削ることができる。その反面、最後にひじを突き出す形になるので無駄なスピンがかかる。なぜこのようなフォームになったのかというプロセスはわからないが、NBAでは小柄な部類に入る彼らが生き抜くためには、そのわずかな時間を確保することこそが重要だったのかもしれない。

 ペイトンのスローインを受けたフィッシャーは時間節約のために、シュート・モーションの途中でボールをもらいリリースしているように見えた。“頂上”まで到達しない“五合目シュート”。だからこそシュートが打てた。そのピンポイントにボールを投げ入れたペイトンのスローインも絶妙だった。マークしていたジノビリは反則を避けるために少しだけ距離を開け両手を伸ばしてディフェンスを試みたが、それをあざ笑うようにボールは直径45センチのリングの中へズドン。スコアが74―73となったとたん、フィッシャーはコートを走り抜けロッカールームに駆け込んだ。

 実はシュートがタイムアップの前に放たれたかどうかのビデオチェックがこのあと行われるのだが、「その場からいなくなれば審判も判定は変えないかもしれない」というフィッシャーによる審判幻惑のためのデモンストレーションでもあった。

 ブライアントはドラフト同期生のフィッシャーを「生まれついてのリーダー。レイカーズにやって来た日からそうだった」と評している。そして「常に自分の役割を果たすタイプ。ジャンプシュートはNBAに入ってから上達していった。単なる“いいシューター”ではなく“DEAD―EYE(射撃の名手)”だ。しかも我慢強い。だから僕らは究極のコンビとなった」と頼もしい相棒の底力を絶賛。スパーズはブライアントに見えていたものが、おそらく最後まで見えていなかったのだと思う。

 0・4秒という極限的な時間の中で史上に残る奇跡の逆転劇が成立。勢いづいたレイカーズはその2日後にロサンゼルスで行われた第6戦も88―76でものにして4勝2敗とし、ファイナル4連覇を阻まれた前年の西地区準決勝(2勝4敗)のリベンジを果たした。(敬称略・続く)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。

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