追悼連載~「コービー激動の41年」その46 仲裁役はマイケル・ジョーダン?
2004年3月13日。シカゴでのブルズ戦はロード4連戦の最終日だった。フィル・ジャクソン監督にとっては古巣。テレビの放送席にはブルズ時代に苦楽を共にした解説者のスティーブ・カー(現ウォリアーズ監督)の姿もあった。
6日間で4試合目。選手も監督、アシスタントコーチも集中力を保つのが難しくなる。だがジャクソンにしてみれば、そこに「救世主」が現われた。ブルズを離れて6年が経っていたが、この日はスコッティー・ピッペンやジョン・パクソンといった“V戦士”がユナイテッドセンターに来ていたのだ。ジャクソンは「来年はまたチームに戻るのかい?」と去就をめぐるシビアな話題を持ちかけられたが、彼らとの会話は苦痛ではなかった。
そして最後にマイケル・ジョーダン(現ホーネッツ・オーナー)に話しかけた。「コービー(ブライアント)に接触する機会はあるかい?」。他の面々とは軽いトークだったが、ジャクソンはジョーダンだけには“心の叫び”をぶつけていた。そして「協力はする。アドバイスが必要ならね」と語ったジョーダンはレイカーズのロッカールームに入っていった。
どんなやりとりがブライアントとの間にあったのかはわからない。その効果も不明だ。今年の2月24日に営まれた葬儀でもジョーダンはこの部分に関しては話していない。ただジャクソンという指揮官についてお互いの意見をぶつけあったことだけは確かだ。
2004年3月21日、バックスを延長の末に104―103で下したレイカーズは5連勝を飾った。ブライアントは不調だったが、シャキール・オニールが31得点、26リバウンド、7ブロックと1人で気を吐いた。勝てば“内紛”も目立たなくなる。24日のキングス戦も115―91で快勝。ブライアントは女性への暴行事件をめぐるコロラドでの裁判に出廷したあとにUターンして試合に出るというスケジュールだったが、その疲れも見せずにいい働きを見せた。4月2日にスーパーソニックス(現サンダー)を97―86で下したところで11連勝。レギュラーシーズンで6試合を残したところで53勝23敗とまずまずの成績を残し、プレーオフに向けて光が差し込み始めた。
そんな時に再びブライアントが迷走する。レギュラーシーズン80試合目となった4月11日のキングス戦に85―102で敗れてしまったことがきっかけだった。ブライアントはわずか8得点。40分以上プレーした試合の中ではこのシーズンの最少得点に終わった。メディアには「シュート・セレクションが悪い」と批判され、ロサンゼルス・タイムズ紙には「あいつ(ブライアント)を許せるかどうかわからない」という“匿名の選手”の談話が掲載された。4月13日のウォリアーズ戦を前にして行われた練習の前に、ブライアントは「誰が言ったんだ?」と他の選手の顔をじろじろと見ながら聞きまくっている。コートに全員が集合したときも「誰がこんなことを口にしたのか知りたいんだ」と愚痴をこぼし続けた。誰も答えない。そして当時40歳だったカール・マローンが沈黙を引き裂いた。
「コービー、誰もそんなことを言ってはいないさ。仮にそうであったとしても、そんなことは忘れたほうがいい。今はそんなことでもめている場合じゃない」。
マローンとブライアントは友人関係にあった。その友人が子どものような態度をいさめたのだ。マローン以上の仲裁役はいなかっただろう。ところがブライアントは激怒。口論はエスカレートして、とうとうジャクソンが両者の間に入って両手を広げ「もうやめるんだ」と険悪な雰囲気になっていた2人を引き離した。それが2004年のプレーオフに突入する寸前のレイカーズだった。
ブライアントはこのウォリアーズ戦で、このシーズン自己最多の45得点をマーク。キングス戦とはうってかわって存在感を示した。いや示さざるを得なかったのだろう。存在すると信じていた匿名の選手の口を黙らせるために…。そしてレイカーズはオニールとブライアント、ブライアントとジャクソンという異なるベクトルを持つ衝突エネルギーを抱えながらもレギュラーシーズンを56勝26敗で終了。西地区パシフィックのディビジョン1位でプレーオフに進出した。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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