追悼連載~「コービー激動の41年」その15 運命的なトレード 誰もが知らなかった未来
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【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】1996年のNBAドラフトでホーネッツがコービー・ブライアントを全体13番目で指名したのは6月26日。そしてレイカーズのセンター、ブラディー・ディバッツ(当時28歳)とのトレードが正式に成立したのはドラフトから15日たった7月11日だった。
いくつかのメディアは「コービーはごう慢だ。ロサンゼルスに行きたいから自分でトレードを画策した」といったニュアンスで報じている。もしそうだとしたらとんでもなく商才に長けた17歳だ。だが現実は違った。代理人のアーン・テレム氏は「彼はロサンゼルスのマーケティングに興味は示していたが、すでにホーネッツでプレーできることに幸せを感じていた。ただしレイカーズが動きだしたという情報は察知していたので、そこからはより慎重な態度になった。それだけだ」と証言。実際、レイカーズのジェリー・ウエストGMはドラフトが終了する直前「コービーなら請け負うよ」とホーネッツ側にトレードOKの打診をしたことを認めており、指名された選手側の思惑がそこに割り込んでくるような余地はなかった。
当時、レイカーズはマジックからFAとなっていた「シャック」ことセンターのシャキール・オニールの獲得にも動いていたが、ネックはチームの総年俸を制限するサラリー・キャップ。当時、リーグ最高クラスの年俸を手にしていたディバッツの存在が重荷になっていたので、彼を放出することへのためらいもなかった。ブライアントのレイカーズ入団の背景には、偶然にもこの年にFAとなっていたオニールの存在も絡んでくる。そうディバッツを差し出せばコービーのトレードと、シャックの獲得という2つの問題を同時に解決できたのだ。
運命とは不思議なものだ。オニールがドラフト全体トップで指名されたのは1992年。ルイジアナ州立大3年のときだった。現在では1年生を終えた段階でNBA入りを表明する選手が多いが、もし彼が1年、2年、そして4年生というタイミングでNBAに入っていれば、FA資格取得年度は違っており、コービーのドラフトと彼の人生が交錯することもなかった。同時進行の別世界、いわゆる「パラレル・ワールド」ではディバッツとのトレードや、シャック&コービーでファイナルを3度制するレイカーズ王朝の到来などはなかったはずなのだ。
現実の世界に戻ろう。トレードが決まった7月11日、コービーは翌日の記者会見に出席するため、ロサンゼルス国際空港に降りた。新天地での「DAY1」をコービーはよく覚えていた。会見の内容ではない。空港で見知らぬ男性から声をかけられたことだ。コービーを見て、背が高いのできっとバスケをやっているんだと確信したその男性は「どこでバスケをやっているんですか?」と尋ねてきた。いくらスーパー高校生といってもそれはフィラデルフィアでの話。自分が誰であるか気がついてくれなかったことできょとんとしてしまったコービーはつい「ローワー・メリオン高校です」と答えてしまった。
米国の東海岸と西海岸では別の国に等しい。その高校がどこにあるかわかってもらえるわけはない。今度はその男性がきょとん。しばしの沈黙…。やっと我に返ったコービーは頭をかきながらようやく自分の存在の小ささに気づき「レイカーズの一員でもあります」と答えた。何気ない空港での一場面。しかし最初のファン?との遭遇は、自分が何者で、これからどうすればいいのかを我が身に問いかける思い出深い交流になった。
7月12日、会見は本拠地フォーラムで行われた。実はその数時間前、英国のチャールズ皇太子とダイアナ妃の離婚という世界的なビッグニュースが流れている。コービーにとって「DAY2」も印象深い日だったかもしれない。
「ここに来れてとてもうれしいです。マジック(ジョンソン)やジャバー(カリーム・アブドゥルジャバー)らがいた偉大なチーム、そして偉大な歴史を持つチームの一員になれたのは夢のようです」。
多くの運命の糸を手繰り寄せてレイカーズにやってきた高卒ルーキー。きびしい戦いが始まったのはここからだった。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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