シライ3の圧倒的難度、決まれば金メダルほぼ手中に 白井の凄さ徹底解剖

[ 2016年3月8日 08:08 ]

決めれば金メダルをほぼ手中にできる大技「シライ3」

 これが“ひねり王子”の金技だ。リオデジャネイロ五輪開幕まで150日。体操男子の白井健三(19=日体大)には、得意の床運動で金メダルの期待が懸かる。13年に名前が付いた「シライ/ニュエン(後方伸身宙返り4回ひねり)」、「シライ2(前方伸身宙返り3回ひねり)」に加え、15年12月の豊田国際では「後方伸身2回宙返り3回ひねり」に成功。2月に「シライ3」と命名され、体操界のキング・内村航平(27=コナミスポーツ)が「夢のまた夢」と言う大技を徹底解剖する。

≪足を刺すイメージ≫
 15年12月12日、白井が体操界に強烈なインパクトを残した。男子では最高H難度の「後方伸身2回宙返り3回ひねり」に成功。同大会は欠場したものの、会場で大技を目撃した内村の言葉が、衝撃の大きさを物語る。

 「あれは、夢のまた夢の技ですね」

 抱え込みで宙返りするG難度「リ・ジョンソン」を伸身で実施する「シライ3」。高校時代に「リ・ジョンソン」をマスターしていた内村は、伸身でも練習を重ねた。だが、一度も成功することはなかった。

 「僕も伸身でやりたかったけど全然、無理だった。伸身にすると回転スピードが遅くなるし、伸身で回す技術とひねりをミックスするのは、凄く難しい。回せてもひねれないし、ひねれても回せない」

 伸身での2回宙返りを可能にするのは、跳び上がる前に足を着く位置。鶴見ジュニア体操クラブ代表で白井の父・勝晃さん(56)は、「やや遠めに足を着いて下っ腹、腰を前に出すことによって、体を送り込む動作を作っている。バネのように体を使わないと、回転していかない。これは他の選手にはまねできない」と指摘する。

≪失敗は即 大ケガに≫
 フロアのマットの下にはスプリングが敷き詰められており、白井は足の位置に繊細なこだわりを持つ。「あいつ(白井)は足を“着く”のではなく、“刺す”と表現する」と勝晃さん。突き刺さるくらいのイメージで床に力を加えるが、白井は鶴見ジュニアでの練習中にちょうどスプリングのないところに足を着き、フロアを突き破ったことがあるという。今は本番前の練習で他の種目よりも時間をかけ、最も弾むポイントを探り当てる。

 両親が指導者で物心つく前から体操場で跳びはねて身に付けた、ひねりの技術が加わることで「シライ3」は可能になる。日本男子前監督の立花泰則氏(52)は、「ひねりのタイミングを少しでも間違えると失敗する。ひねり不足のまま着地してしまうと大ケガをする可能性があり、正確性が求められる」と説明。「シライ3を入れることで演技としての格が上がり、より独創的なものになった」と続けた。

 進化を後押しするのは、天性のセンスと飽くなき向上心だ。10年、中学2年だった白井は、テレビで特集された内村の「リ・ジョンソン」を食い入るように見つめた。「家で体操のテレビは見ないやつが、真剣に見ていた」と勝晃さんは振り返る。

≪練習10分“完コピ”≫
 翌日、体育館の反発力を抑えたトランポリンの上で挑戦すると、わずか10分で成功。当時は筋力不足で演技構成には入れられなかったが、14年終盤から「リ・ジョンソン」を構成に組み込んだ。「シライ/ニュエン」、「シライ2」とひねり系の技だけでなく、縦回転系の大技も習得し、15年世界選手権の金メダルにつなげた。

 15年はリオ五輪イヤーを見据え、並行して「シライ3」のトレーニングも始めていた。同年1月に公開練習で披露した際に、白井は「技自体はできることが多いけど、それをやることで感覚がズレる。まだ試合では使えない」と話していた。それから1年もたたない豊田国際で「シライ3」を決めた。

 技の難度を示すDスコア(演技価値点)は、15年世界選手権の時点で7・6点。Dスコアが2番目に高い選手ですら6・8点と、ライバルを圧倒していた。「シライ3」を組み込むことで、Dスコアは7・7点に上がる。「あんまり7・6点を続けても、おもしろくない。これまでDスコアで勝ってきているタイプなんで、歩みは止めたくない」。前人未到の領域こそが、白井の主戦場だ。

 16年2月、リオ五輪イヤー初戦のAGF杯(アゼルバイジャン)の予選で、「シライ3」にアタック。着地で前のめりになり、両膝を着く失敗に終わった。演技直後は「つらいです」と肩を落としていたが、「伸身の難しさを確認できて、凄くいい試合になった」と今は前向きに捉えている。「シライ3」を完全に習得し、“ひねり王子”が黄金の未来へ突き進む。

 ◆白井 健三(しらい・けんぞう)1996年(平8)8月24日、神奈川県横浜市出身の19歳。3歳で体操を始める。寺尾中3年時の11年全日本種目別選手権の床運動で2位。岸根高2年時の13年世界選手権では床運動で金メダルを獲得した。15年に日体大に進学し、同年世界選手権の床運動で2年ぶりに優勝。1メートル62、51キロ。

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