【レジェンズ・アイ】中村俊輔氏カタールW杯を総括 〝モロッコ戦術〟堅守速攻が今後のトレンド
FIFAワールドカップカタール大会
フジテレビSP解説を務める元日本代表MF中村俊輔氏(44)が、W杯の魅力を語る本紙の特別企画「レジェンズ・アイ」。最終回はメッシ擁するアルゼンチンの優勝で幕を閉じた今大会を総括した。今季限りで引退した天才レフティーは、旋風を巻き起こしたモロッコの戦術が今後のトレンドになる可能性を示唆。また、日本代表も苦杯を喫したPK戦の重要性も改めて指摘した。(取材・構成 垣内 一之)
「メッシがW杯を掲げる姿を見られて、本当にうれしかった」
多くの人々が望んだと思われる結末に、現地で生観戦した俊輔氏も一人のサッカーファンとして喜んだ。
では、俊輔氏にとってはどんなW杯だったのか?
「2トップは減ったかな。一方で、やっぱり4バックが多かった。特に4―3―3が多くて、モロッコやカメルーンのように、点を取りにいく時に4―4―2に変形するチームが多く見られた」
戦術眼にたけた俊輔氏だけに、今大会の総括で真っ先に口にしたのは、やはり戦術やシステムだった。
実際、日本のように試合途中で4バックから3バックに変更したチームもあったが、4バックをベースとしたチームは、出場32チーム中24チームと、約7割に及んだ。中でも4―3―3は14チームと全体の4割を占めた。
「サイドに速い選手を配置して(相手布陣に対して)外回しで攻めるチームが多かった。理由は相手に簡単にボールを取られたくないから。そこから速攻の意識を高く持つ。それはサイドに速い選手がいるからこそ」
選手の特徴や細かい戦術には違いがあっても、サイド攻撃を中心に戦術を組み立てるチームが多かったと分析した。優勝したアルゼンチンも、決勝ではスピードのあるディマリアを3トップの左に配置。前半に2点のリードを奪って試合を優位に進めた。
俊輔氏はさらに「ボールを持っている方が、勝つ確率が低かったのでは?」とも指摘した。「やっぱりW杯って一発勝負だから、点を決めたら、ある程度、自陣に引く時間がある。ただし、それは決してネガティブな時間ではない。攻撃されているけど、点を取られるような攻撃ではないから。相手を焦らせたりする意味で、そういう時間帯を増やすのも有効」とみている。
アフリカ史上初の4強入りを果たしたモロッコが最たる例だ。「しっかり最終ラインと2列目の間をコンパクトにして(最終ラインの)4枚の前に5枚いるから、そこがフィルターになって、横ズレができる」。相手にボールを支配されても、4―5―1でしっかり守り、奪ったら素早い速攻を仕掛けることができる。
一方、日本がクロアチア戦などで適用した3バックだと、守備時に「最終ラインが5枚になって、前のフィルターは4枚になる」と指摘。「元々のシステムは3―4―3。1トップ2シャドーだから、(守備が5枚になったときの)両サイドは、守備が得意ではない選手が多くなる。モロッコやクロアチアのような4―5―1がベターだなって感じた」
実際、3バックになったときの日本は伊東、三笘ら攻撃的なドリブラーがウイングバックで起用され、守備時には5バックの両サイドとして守備に追われていた。もし最終ラインが4枚で守られていれば、三笘らはより前線で勝負ができ、速攻の威力が増すという見立てだ。
そして、俊輔氏が最後に改めてその重要性を指摘したのが、日本も決勝トーナメント1回戦でクロアチアに敗れたPK戦だ。
「日本がそうだったからかもしれないけど、PK戦の前に決めたかったというのは、相手も同じ。W杯では、PKの戦いも大きな差になるんだなと、改めて感じた」
自身もPKのキッカーとして活躍しただけに、その重要さは心得ている。
「キッカーはもちろん、PKが得意というGKを育ててもいいと思う。そうすれば強い相手との試合の残り5~10分で“PKに持ち込むぞ”というような戦い方もできる。例えばJリーグであればルヴァン杯とか天皇杯。高校サッカーもそうだけど、大会中だけでもPKの練習をやるとか。自分はキッカーだったから、普段から意識して練習していたけど。準備して負けたら、そこで初めて“運だった”と言えると思う」
決勝はそのPK戦を制したアルゼンチンが3度目の頂点に立った。指導者の道に進むことが決まっている俊輔氏も、多くの学びがあった大会となったようだ。=終わり=
◇中村 俊輔(なかむら・しゅんすけ)1978年(昭53)6月24日生まれ、横浜市出身の44歳。97年に桐光学園から横浜M(当時)入り。02年7月にレジーナ(イタリア)移籍。05年7月に移籍したセルティック(スコットランド)で数々のタイトルを獲得。09年6月にエスパニョール(スペイン)に移籍し、10年2月に横浜復帰。17年から磐田でプレーし、19年7月にJ2横浜FCに加入した。00、13年にJ1でMVP。日本代表は98試合24得点。W杯は06、10年に2度出場した。1メートル78、71キロ。利き足は左。
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