五輪唯一の全敗“谷底”北京世代が日本の主軸になる糧となった日――本田に△がつく少し前の話
【忘れられない1ページ~取材ノートから~木本新也記者】08年北京五輪。反町康治監督(当時44)率いるサッカー日本代表は1次リーグ3戦全敗に終わった。現行制度になった92年バルセロナ五輪以降、日本は6度五輪に出場しているが、未勝利はこの大会しかない。MF本田圭佑(当時22)、香川真司(当時19)、DF長友佑都(当時21)らが味わった屈辱の経験が、後にA代表の主軸に成長する糧になった。
今でも鮮明に覚えている言葉がある。決勝トーナメント進出の望みが絶たれて迎えた1次リーグ最終戦オランダ戦。0―1で敗れた試合後に本田が戦術決定に至った内幕を明かした。「それ(監督の考え)はごもっともだけど、俺の考えは違った。何人かの選手に“前から行って相手を圧倒しよう”と話したら、それでいこうとなった」。試合前に反町監督からは「オランダはうまいから深追いしなくていい」との指示が出ていた。消化試合とはいえ、日の丸を背負った戦い。格上相手にスペースを与えずに勝つ確率を少しでも上げる采配だったが、コーチ陣の知らないところで、選手の判断で積極策が選択されていた。
今でも鮮明に覚えている場面がある。1次リーグ初戦の米国戦、0―0で迎えた前半21分の右CKの好機。本田のショートCKを受けた内田が香川とのワンツーで右サイドをえぐり、グラウンダーのクロスを送った。逆サイドでフリーになった森重が至近距離から右足を振ったが空振り気味に足をかすめたボールは左外へ。完璧に崩しており、痛恨のシュートミスだった。
日本は米国、ナイジェリア、オランダと同組になった1次リーグで3戦全敗。この屈辱をバネに反町ジャパンの面々は著しい成長を遂げていく。18人中、梶山を除く17人がA代表を経験。2年後のW杯南アフリカ大会には5人が選出されて16強に進出した。14年W杯ブラジル大会は8人、18年W杯ロシア大会も5人がメンバー入り。欧州4大リーグで活躍した選手も多い。北京五輪後の10年間の日本サッカーを支えたのは紛れもなく“北京世代”だった。
本田の働きかけでオランダに正面からぶつかり23歳以下の選手たちは世界との距離をつかんだ。内容はPKによる1失点のみで、シュート数は相手の10を上回る11。フィニッシュの精度に差があったものの、欧州の強豪の背中は想像より近かった。たらればになるが、米国戦で森重が決定機を沈めていれば、勢いに乗って1次リーグを突破していた可能性は十分にある。
五輪史上最低成績に終わり「谷底世代」と揶揄(やゆ)された。その一方で得た世界と戦える手応え。結果と実感のアンバランスさが、その後の発奮材料になった。オーバーエージ(OA)枠での選出を目指した大久保嘉人(当時神戸)と遠藤保仁(G大阪)を、所属クラブの事情とウイルス感染症で招集できずにOA枠の採用を見送り、23歳以下の選手だけで臨んだことが、どん底からはい上がる上での結束を強めた側面もある。
数日後、日本協会スタッフから「圭佑(本田)は“あんなこと言ってない”と言ってるけど、どうなの?」と聞かれた。“ごもっとも発言”は複数の報道陣の前でのコメント。「取材ノートのメモを見せましょうか?」と返答しただけで“事情聴取”は終了した。今でこそ、歯に衣(きぬ)着せぬコメントが魅力の本田だが、当時は22歳。言葉が独り歩きしだしたことに不安を覚え、発言自体を否定したのかもしれない。有言実行の男として本田△(本田さんかっけー)のフレーズがインターネット上にあふれるのはまだ先の話。当時は出身地もアース(18年にNHKの番組で発言)ではなく、大阪府だった。
《反町イズム「世界に通用するA代表」が礎に》反町監督の存在なくして、北京五輪世代の成長は語れない。06年7月のチーム発足以降は一貫して「世界に通用する選手をA代表に送る」をテーマに指導。北京五輪代表決定前最後のスタッフ会議では、センターバックに青山直晃(当時清水)か吉田のどちらを選出するかで意見が割れた。既に当時のオシム監督のもとでA代表入りしていた青山を推す声が強かったが、指揮官は吉田を選択。技術、メンタル、戦術眼などから将来性を評価した選考だった。
選手の人間力を育むことにも注力した。中国遠征前には慶大の教授を合宿に招いて中国文化の講義を開き、シリア遠征では世界最古のイスラム教の礼拝所ウマイヤド・モスクをチームで見学。サッカー以外の知見を深める重要性も説いた。チームスローガンは「情熱と誇り」。日の丸を背負う意味を問い続けた2年間でもあった。3月には日本協会の技術委員長に就任。日本サッカーの未来を左右する重要ポストで手腕が期待される。
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