胸に響く「心が整う」長谷部の言葉
なるほど、心が整ってるわけだ。浦和OBでフランクフルトのMF長谷部誠(35)の言葉はズキュンと胸に響いた。5月26日、埼玉スタジアム内でブンデスリーガ協力のもと、長谷部のトークセッションが開かれた。参加した浦和のジュニアユース及びユースに所属する約60人の瞳はキラキラと輝いていた。
中でも響いたのは次の一言だ。「壁にぶつかったら、乗り越えた時の自分を想像すればいい!」。
長谷部のサッカー人生は決して順風満帆だったわけではない。藤枝東高時代は市のトレセン(選抜)メンバーにも選ばれず、浦和からオファーを受けても両親からはプロ入りを猛反対された。プロ1年目にはチームの合宿にも帯同できず、サテライトリーグでも試合に絡めなかった。「正直、とんでもない世界に来てしまったな、と思っていました」。
日本代表では初招集の合宿で緊張によるストレスから胃を悪くし宿舎で寝込んだ。ドイツに渡っても1年目は周りの選手からパスさえもらえず、同じポジションの選手からは猛烈な“削り”を受けたことも。「漫画で見ていた世界だった」と言う。その都度、どうすれば打開できるかを考え実践した。ドイツでは削った奴を削り返し必死に食らいついた。壁を乗り越えた時の自分を想像して。
「ぶつかっている最中は苦しい。でも壁を乗り越えると1人の人間として大きくなっている自分がいた。今では壁にぶつかるとワクワクする。次はどんな自分になれるか、と。今は何でも来い、という心境ですね」。
サッカー人生を振り返りながらのトークは説得力に長け、アカデミーの選手たちを引き込んでいった。
寝坊癖に悩む高校生には“ライン引き係”を担当していた自身の高校時代の話を聞かせた。誰よりも早くグラウンドに行き、ラインを引いてから“余った時間”でボールを蹴っていたという。「時間に余裕をつくれば、それだけ心にも余裕が生まれる」と。
参加したユース選手は誰もがプロ選手を目指すが、全員がトップチームに昇格できるわけではない。長谷部は「みんなが同じ方法で上に行かなくてもいい。自分のパーソナリティーを知り、自分のアプローチ方法を考えることが大事。もしサッカー選手になれなくても、そのプロセスは無駄にはならない。今を楽しみ、頑張って欲しい」と伝えた。
昨年6月W杯ロシア大会後、日本代表を引退した。クラブに専念することで「35歳にしてベストのパフォーマンスを見せられた」と胸を張った。30歳を過ぎた選手は下り坂という固定観点を打ち破ることがモチベーションだったと言う。「これに満足せず、来季はさらなる高みを目指したい」とも言った。
想像に難くない。目の前の壁がどんなに高くても長谷部がひるむことはない。打開策を見つけ、勇敢に乗り越えていくはずだ。その先の自分を想像しながら。(牧野 真治)
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