【京王閣・ガールズＧＰ】土壇場で切符！石井貴、商社ＯＬから勝者へ

[ 2015年12月28日 05:30 ]

　「ガールズグランプリ２０１５」（優勝賞金１０００万円＝副賞含む）が２８日、京王閣競輪場の１１Ｒで争われる。トップ選手７人が一発勝負で女王の座を目指す。最後の最後にグランプリ切符を手にした石井貴子（２５＝千葉）がここでも勝負強さを発揮する。スキーでトップを目指す夢が破れ、一度はＯＬ生活を送ったが、新たに挑んだガールズケイリンで頂点に立つ。

　シンデレラストーリーは突然、始まった。１２年、ある冬の日。オフィスがある東京・人形町から寮のある千葉・我孫子への帰り道。石井貴は常磐線の中で、もみくちゃになっていた。アルペンスキーで世界の強豪と戦う夢はすでに破れ、ひたすら満員電車で往復の日々。戦いたい。あのひりひりする感覚をまた味わいたい。そんなことを思いながら中つり広告に目をやった。「ガールズケイリン選手募集」。あっ、これだ！！「体中に電流が走った。決断に０・３秒しかかからなかった」

　高校からアルペンスキーに打ち込み、大学でも続けた。全国レベルだったが、度重なるケガに悩まされ、競技続行を断念した。卒業後は商社に就職。だが、何かが違った。「競技をやり切った達成感がまるでなかった。毎日、悶々（もんもん）と過ごしていた」

　こうと決めたら早かった。あらゆるツテを頼り篠田宗克・日本競輪選手会千葉支部支部長に弟子入り。競輪学校入学に向けトレーニングを開始した。スキーで鍛えたバランス感覚と強じんな足腰が生きた。みるみるタイムが縮まる。もちろん受験即合格。競輪学校在校時には小林優香とコンビを組んだ国体のエキシビション競技のチームスプリントで日本新記録。デビュー前にナショナルチームの一員となった。

　デビュー後も順調。ただ、今年の春先は調子を崩し、合宿や海外遠征などで賞金の上積みができなかった。９月、Ｇ１オールスターが開催された松戸で行われたガールズコレクション。「ここで１着じゃなければグランプリに出られないと分かっていた」。正念場の一戦を前に高まる緊張感。そんな石井貴に師匠の篠田はあえて課題を出した。オールスターのＰＲ役に任じ、マスコミ各社を回らせた。「移動中は何も気を使わず寝てていいから」。渋る弟子を説得した。石井貴は車内では爆睡、カメラの前では笑顔を振りまいた。そんな姿を競輪の神様はしっかり見ていた。鮮やかな差し切りで優勝。賞金を加算すると、続く四日市では加瀬との直接対決を制し土壇場で７位に浮上。グランプリ切符を手にした。

　母は着物の着付けの先生。普段から和服を着る機会は多い。特技は琴。おしとやかな印象の石井貴だが、レースでは表情が一変する。早大スキー部の先輩にあたる奥井は「スキーで１００分の１秒の争いをしていただけに石井さんの集中力は凄い」と話す。

　「グランプリは特別な思いがあるレース。１着を狙うのは当然だけど、そこまでの過程が大事。やるべきことをしっかりやり結果を出せれば」。あの常磐線でのひらめきが今、大輪を咲かす。冷静な読みと鋭いダッシュでシンデレラストーリーを完結させる。

　◆石井　貴子（いしい・たかこ）１９９０年（平２）２月１７日、岐阜県生まれの２５歳。岐阜・美濃加茂高在学時の０７年に全国高等学校選抜スキー大会の大回転で２位。早大でもアルペンスキー部に所属。大学卒業後はＯＬ生活を送っていたが、一念発起してガールズケイリン選手を目指し篠田宗克（千葉）に師事。１３年５月に競輪学校に入学。在校成績は３位、卒業記念レースで完全Ｖ。昨年５月に女子３期生としてデビュー。西武園で完全優勝を飾るとデビュー９連勝を達成した。通算８５戦４９勝、２着２１回。１メートル６３、５３キロ。血液型Ｏ。

　▼篠田宗克（石井貴の師匠）　アマ時代に世界選手権など世界の舞台を数多く体験した、誰にも負けない素材。グランプリは他選手のいろいろな思惑、駆け引きがあるだろうが、どんな流れにも対応できる勝負強さがある。自転車に向き合う姿勢も申し分ない。場数、精神力、脚力、素質―－。多くの要素を併せ持った石井はグランプリを獲れるだけの器だと信じている。

　▼ガールズケイリン　昭和初期に女子だけの競輪が実施されていたが、人気の低下から６４年に廃止。１２年７月１日にガールズケイリンとして復活。７車立てで行われ、自転車競技の国際ルールに準拠。競りやブロックなど男子の競輪で許されているヨコの動きは禁止。直線で空いた中のコースを割って入ることも失格の対象となる。レースは風よけとなる先頭員（誘導）が半周前から助走を開始、スタートライン到達時に号砲が鳴り発走する。選手は先頭員が規定の区間（４００バンクは残り１周半のバック線、打鐘開始位置）で退避するまでは並んだり、追い抜いてはいけない。打鐘後は７人のスプリント勝負となる。